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2020年8月30日日曜日

アメリカ観光:トレイル編

 壮大なるアパラチアン・トレイル


 この季節、たくさんのハイカーがうちの近くの山野を訪れます。ハドソン川に沿ったこの界隈の自然は美しく雄大で、観るものを魅了します。全米各地から老若男女のハイカーたちが集って来るのですが、中でもゴリゴリのプロ級ハイカーが挑むのが、世界最大級の自然遊歩道、Appalachian Trailです。

 このスケールのトレイルは大陸でなければ体感できません。アメリカ東部にあるアパラチア山脈という長大な山々に沿ってつないだ長距離自然歩道です。北はメイン州から南はジョージア州まで全長3529キロメートルの山道です。あまり長くて実感がわきませんね。北海道北端の稚内駅から鹿児島駅まで車とフェリーで走ると最短2721キロだそうです。そうですこのトレイルは日本列島よりはるかに長いのです。それはもう気の遠くなりそうなほど。

 


 当然大半の人はこのトレイルの部分部分を半日ほど歩いて満足しています。ところが中には猛者がいて、このトレイルを全部歩き通すスルー・ハイカーという人達がいるのです。彼らは一日50キロから100キロ前後歩きます。起伏の激しい山道が多いので、容易なことではありません。それを嬉々として楽しむのが筋金入りのハイカーというわけです。こんな人がアメリカにはたくさんいて、毎年2000人ほどがこのスルー・ハイキングに挑むそうです。しかしその殆どが途中リタイア。完全踏破できるのは年に20人に満たないといいます。

 宿泊は自前のテントとか山小屋やロッジがあればいいのですが、なければ山を降りて近隣の宿泊施設を使う事になります。けっこうその行ったりきたりに手間と時間がかかります。私は依頼があれば4輪駆動車でハイカーの待つところまで行き、B&Bなどにお運びします。ほかにもこの壮大なスルー・ハイカーを支援する人たち(道案内や食料、物資の調達係など)が地域ごとにいて、こういったサポーターはトレイル・エンジェルと呼ばれています。全行程歩くには半年から一年かかると言われていますから、単独で全て成し遂げるのは不可能に近いのです。

 私はこのアパラチアン・トレイルに属する山道の一部を何度か歩き回りました。デイ・ハイクといって、すべて日帰り旅なので30キロが限界です。これ以上歩くと次の日の仕事に差し障ります。これはごく一般的ライトなハイキングになりますが、それでもそれなりの装備で行かないと、泣きを見ることになります。しっかりしたトレイル・シューズはもちろんのこと、GPSが利用できない場所に備えて、紙の地図も現地で手に入れてから望むべきです。うちの近隣でも夏場はしょっちゅう道に迷ってレンジャーに救助される人が絶えません。スマホも役に立たないと思っておきましょう。電波おn届かないところのほうが多いです。予備の水や食料、救急用具一式や発煙筒、虫除けの薬などもあったほうがいいでしょう。ひたすら山を歩くのは苦痛のほうが多いのです。

 しかしときおり、たどり着いた場所で思わぬ感動の風景を目にすることがあります。ああ、なんて美しい景色なんだ、と。それは苦労して歩かなければ観ることにできない感動です。おそらくスルー・ハイカーもそんな感動との出会が忘れられないから、挑み続けるのだと思います。

 先日ハイカーからの電話で、駅まで迎えに来てくれとの依頼があったので行くと、30代のカップルがフル装備で待っていました。行く先を聞くと、二人は先回途中まで歩いたアパラチアン・トレイルの地点まで行ってくれとのこと。彼らは目的地をGPSで示しました。山の中なので住所番号などないのです。彼らはあくまで地球上の座標ありきで行動するのです。今回は幸い指示された地点までカーナビが案内してくれました。というか、その地点まで車では行けないので、トレイルの入り口ポイントまでご案内しました。

 二人はこれから明日にかけて120キロ歩く予定だとか。山中で一泊し、翌日終日歩いて、夕方また近郊のトレイル・エンジェルの助けを借りて、最寄りの駅まで戻り、帰宅するのだそうです。マンハッタンからきたこの二人は、こうして休暇を利用したり、週末を活用して、少しずつこの長大なアパラチアン・トレイルを歩きつないでいるのです。こういったハイカーは結構多く、以前出会った高齢のハイカーは、3年越しでこのトレイルを行ったり来たりしているとおっしゃっていました。なんとも気の長い、壮大な趣味です。

 私も地元ばっかりうろうろしないで、いつか全行程のいいとこだけをピックアップして歩きまわりたい、などと虫の良いことを目論んでいます。アパラチアン・トレイルはそれくらい魅力に満ちたハイキングの王道なのです。皆さんにも一度はこのグレートなハイキングにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

   


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