ケアをするオプション
今の時代、自分を守るだけで精一杯という人は少なくないでしょう。そんな中でも身内の老人、病人、怪我人の世話は待ったなしです。アメリカではどのようにこの問題と取り組んでいるのでしょうか。
私は仕事柄、養護関連の人を病院やケア施設へお運びすることをよく行っています。そういった施設やケアセンターのスタッフ、身内の方々はいまとても大変です。ただでさえ日常生活で支えを必要とする人を、コロナから守りながら、自らも感染の危機にさらされ働いているのです。
たくさんの人が集まる大人向けのデイ・ケアも今は多くが休業状態です。こう言っては失礼なのですが、実際の現場を見ると、介護を必要とする人の一部は、コロナ対策の自覚に乏しく、マスクをせずに他人に接近したりします。ケアをする側はすべてフォローできるわけではなく、場所によっては隙だらけの施設も見かけるのです。
実際に老人ホームなどでの集団感染は、アメリカのどの地域でも発生しており、閉鎖をせざるを得ない施設も増加の傾向にあります。家族はもとより、介護の助けになるはずのエイドやボランティアの人達も原則訪問、入室等を禁じられたりしています。これでは介護が逼迫するのも自明のことです。
それぞれの自治体で、助け合って人材を補う試みもありますが、持続的にできるかどうかは不透明なところが多いのが現状。
そんな中、私の家内の母親が、老人養護施設に入るのを断念しました。去年の秋頃から入居先を度々訪れ、義母も納得していた矢先にコロナ問題が起きました。春に予定通りの入居を打診したら、待ってくれと言われました。ケア要員の人材不足と、財政難、そして安全の確保が不十分で、行政から新規入居者を制限するよう指示されていたらしいです。
こちらもそんな不安要素の多い場所に義母を預けるわけには行きません。しかし養護施設を断念したことで、われわれは深刻な現実に直面しました。というのは、義母はすでに先月、長年住み慣れた実家を売却してしまっていたのです。
義母にはもう帰る家がありません。思わぬ事態に家内の親族は家族会議をZOOMで始めました。なんとか他のオプションはないものかと検討を繰り返しました(私は不参加。家内に任せました)。フロリダに母のいとこで一人暮らしの大叔母さんがいるので、どうかと意見が出たのですが、それでは老老介護になってしまいます。
家内の親戚、兄弟姉妹はいずれも相応の家を持っていますが、急に母を迎えるとなると、生活設計も大幅に変えることになるでしょう。義母は足が悪く、車椅子に対応できる家が必要なことも忘れてはいけません。毎週何度も議論が繰り返されました。そのうちコロナの情勢が好転するのではと、淡い期待もありましたが、全米規模ではまだ感染は増加傾向ということで、施設等への転居はオプションからはずさざるを得なくなりました。
ーー誰かが母と一緒に住み、世話をする。
やはりこれしか選択肢はありません。我が家もできることならなんとかしたいのですが、うちは借家で寝室の余分もありません。親族みんなが母を心配し、どうすべきかと、呻吟する日々が続きました。
そしてその挙げ句、家内の姉夫婦が母と暮らすことを決断しました。決め手は「リタイヤ」です。この姉の夫は、この春定年で仕事をリタイヤしたばかりです。おりしも10年前から決めていた、田舎暮らしへの準備が進行中だったのです。引退後にはロングアイランドの大きな家を売り払い、ノースカロライナの田舎に引っ越すのが夢だったといいます。すでに彼らはノースカロライナの土地だけを購入していました。この秋には家を建てる計画が進んでいたのです。母と暮らすことで、家の設計図は速やかに見直しが始まりました。小さな家でもバリアフリーにし、応接間を削って母の寝室を作るそうです。
姉夫婦はリタイア生活になるので、母の面倒をみる時間はありそうです。むろん二人にはそれなりのプランがあったでしょうが、今は母のことに意識を切り替えているみたいです。本当に頭が下がります。
このように、なんとかうちの義母の生活は、姉夫婦によって守られそうです。これはまだ運のいいほうでしょう。たくさんの問題を抱える家族とその被養護者たちは全国にたくさんいます。今後はこういった、生活難民の手前にいる弱い立場の人達が、保護されるような政策を為政者に強く示していく必要があるのではないでしょうか。
もはやこれは当事者のみの問題ではなく、国や地域のあり方から抜本的対策が急がれる課題であると私は思います。
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