2022年7月18日月曜日

7月の生物学ニュース・トピックス

サムズアップ・アメリカ!
狙った脳回路を1秒以内にワイヤレスで活性化

神経工学者が磁場を用いてミバエ(蝿の一種。農作物を荒らす害虫と見做されている。生物学の研究などにも利用される)の神経細胞を活性化することに成功ました。




トピックス

Neuroengineers神経工学者)、脳回路を遠隔で活性化する無線技術を開発

研究者らは、遺伝子操作されたニューロンを活性化する磁気信号を使って、ミバエの行動を制御し、ミバエに特定の行動を取らせることができることを明らかにしました。

ライス大学の神経工学者が率いる研究チームは、ミバエの特定の脳回路を1秒以内に遠隔操作で活性化するワイヤレス技術を開発しましたとの発表が話題になっています。

Nature Materials誌に発表されたデモンストレーションでは、ライス大学、デューク大学、ブラウン大学、ベイラー医科大学の研究者が、磁気信号を用いて標的ニューロンを活性化し、囲いの中で自由に動くミバエの体勢を制御しました。

「脳の研究や神経疾患の治療のために、科学界は、極めて精密で、かつ侵襲性の低いツールを探しています」と、この研究の著者で、ライス大学の電気・コンピュータ工学准教授、ライス大学神経工学イニシアチブメンバーのJacob Robinson氏は述べています。
「磁場を用いて特定の神経回路を遠隔制御することは、ニューロテクノロジーの聖杯のようなものです。我々の研究は、遠隔磁気制御の速度を上げて、脳の自然な速度に近づけているので、その目標に向けた重要な一歩を踏み出しています。」とのこと。

ロビンソンによると、この新技術は、遺伝子的に定義されたニューロンを磁気刺激するために、以前に実証された最高の技術よりも約50倍も速く神経回路を活性化するそうです。

「我々が成功したのは、主著者であるチャールズ・セベスタが、温度変化の速度に敏感な新しいイオンチャンネルを使うというアイデアを持っていたからです。」とロビンソンは言いました。
「遺伝子工学、ナノテクノロジー、電気工学の専門家を結集することで、すべてのピースを組み合わせ、このアイデアが機能することを証明することができたのです。これは、幸運にも一緒に仕事をすることができた世界的な科学者のチームワークによるものです。」


研究者達は、遺伝子工学を使って、神経細胞に特殊な熱感受性イオンチャンネルを発現させて、ハエに、交尾の仕草としてよく使われる羽を部分的に広げさせるようにしたのです。
次に、磁場をかけると加熱される磁性ナノ粒子を注入しました。
電磁石の上に設置した筐体内を自由に動き回るハエを、頭上カメラで撮影。磁石の磁場を一定に変化させることで、ナノ粒子を加熱し、神経細胞を活性化させることができました。
実験のビデオを解析したところ、遺伝子組み換えを行ったハエは、磁場を変化させてから約0.5秒以内に翼を広げた姿勢になることがわかったのです。

ロビンソン研究員は、遺伝子を組み込んだ細胞を正確なタイミングで活性化できるため、脳の研究、病気の治療、脳と機械の直接通信技術の開発などに強力なツールとなりうると語っています。

ロビンソン氏は、非手術的なワイヤレス脳間通信のためのヘッドセット技術を開発する野心的なプロジェクト「MOANA」の研究責任者です。
MOANAは「magnetic, optical and acoustic neural access」の略で、国防高等研究計画局(DARPA)の資金援助を受けて、ある人の視覚野の神経活動を「読む」(デコード)、別の人の脳の活動を「書く」(エンコード)できるヘッドセット技術の開発を行っています。磁気遺伝技術は、後者の一例です。

ロビンソン教授のチームは、失明した患者の視力を部分的に回復させることを目標に研究を進めています。MOANAの研究者たちは、脳の視覚に関連する部分を刺激することで、たとえ目が動かなくなっても、患者に視覚の感覚を与えることを期待しています。

「この研究の長期的な目標は、人間の脳の特定の領域を、手術をすることなく治療目的で活性化する方法を作り出すことです」とロビンソンは語っています。
また「脳の自然な精度に到達するためには、おそらく数百分の一秒の反応を得る必要があります。だから、まだ道半ばなのです。」とも語っています。

いずれにせよ、この研究開発が進めば、ヒトの医療に大きな進展が見込めそうですね。




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