2021年9月9日木曜日

めちゃくちゃ面白い「シャンチー」

サムズアップ・アメリカ!
映画「Shang-Chi」がMCUワールドを拡大した!


シャンチーって何?

はい、全くほとんどの人がこの聞き慣れないタイトルに戸惑うでしょう。
私もMCUおよびマーベルコミックの主だったキャラクターは知ってるつもりでしたが、シャンチーに関してはノーマークでした。あと聞きで、ブルース・リー流行りし頃、インスパイアされて登場したマーベルのカンフー・ヒーローだそうです。
でもそなことしれなくてもこの映画は全く問題ありません。この映画「シャンチー」のストーリーは映画用のオリジナルで、コミックとは別物と言っても良い作品だそうです。


先週、全世界で劇場公開された『シャンチー:テン・リングスの伝説』はアメリカでも大好評をもって迎えられました。時に手厳しい評価で知られる映画評論サイト「Rotten Tomato」でも映画のプロたちの評で92%の高評価、一般人の投稿はなんと98%が「良い」映画と評しているのです。これはアメリカ制作の映画ですが、主要なキャストがアメリカ人には無名の中国系俳優だけであることから、いかに映画自体の評判がすごいかわかります。

この「シャンチー」実際に私も劇場に足を運び、その映像の力に圧倒されました。とにかく「魅せる」そして「観させられる」映画なのです。繰り出されるアクションの早さに目を奪われ、意味深な、あるいはちょっとしたキャラクター同士の会話に心惹きつけられます。

こんな言い方は陳腐ですが、単なるアクション映画ではありません。父と子の葛藤をメインに、過去からの決別や運命に引き寄せられるような邂逅があり、神秘の力に翻弄される人々の間で起こる化学反応が面白いです。






面白いといえば、これがMCUの映画であることを承知で見に行ったにもかかわらず、自分がマーベル映画を見ていることを忘れてしまうほどの異質感があります。でもそれは失望ではなく、この先どうなるのだろうというハラハラ感が先立つのです。
この最新のマーベル映画の最大の強みの一つが、いかにマーベルらしくないかということ、というのは奇妙なことですが、本当に今までのMCUとは違う試みに驚かされます。


「Shang-Chi」は、オープニングバトルから、もうMCUの十八番となったポストクレジットシーンまで、マーベルの良いところ悪いところを備えていますが、同時に何か魅力的な新しさも感じられるのです。

(*7月に公開された「ブラック・ウィドウ」とは異なり、このシャンチーはディズニー・プラスでは配信されません(少なくとも10月までは)。シャンチーは劇場でのみの公開です。)



新しいヒーローの誕生

さてこの「シャンチー」、シム・リューが演じるショーンは、サンフランシスコでホテルの駐車場係をしているごく普通の若者。アワークフィナ演じる相棒のケイティとカラオケをしたりしてありきたりの人生を送っている、どこにでもいる凡庸な青年です。
しかし、彼の名前は本当はShang-Chiで、実は千年前の武将である父親から暗殺者になるための訓練を受けており、父親は中国の森の奥深くに隠された魔法の村を征服する計画を持って現れたのです。

あらすじはこの辺りで抑えておきます。「シャンチー」は筋を追っただけではその魅力の100分に一も表現できません。

ただこれだけは強調したいのですが、この映画を支えているのは、香港映画界の伝説的存在であるトニー・レオンでしょう。彼がShang-Chiと影の武力犯罪組織の両方の家長であるWenwuを演じています。
レオンは、冷徹さとロマンチックさ、愛情と復讐心を併せ持つ悪役として、非常に魅力的な存在です。役名のウェンウーは、マーベル作品はもちろんのこと、最近の超大作の中でも最もニュアンスに富んだ魅力的な敵役のひとりでしょう。





そして今回の彼の役柄はスペースファンタジー「スターウォーズ」におけるダースベイダーを彷彿とさせます。息子を悪の道に引き込もうとして立ちはだかる巨大な敵です。
圧倒的な力を秘めた青く光る腕輪はダースベイダーの持つ赤いライトセーバーのようです。それが息子のシャンチーの手に渡ると正義のオレンジ色に変わる。そう、これはルークスカイウォーカーの持つ青いライトセーバーに重なるのです。

それにしてもこの映画でのトニーレオンはとてもいい味を出しています。冷徹無情な悪役でありながら、どうしても憎めない悲壮感をひしひしと感じさせられるのです。この陰りを上手く引き出した監督デスティン・ダニエル・クレットンの手腕に拍手を送りたいです。

もう一度言いますが、私は映画を見ている間、Shang-Chiがディズニーが所有するコミックベースのフランチャイズの一部であることを忘れていました。それは、MCUがこれまで積み上げてきたバックグランドにほとんど頼っていないからです。

以前、マーベルがブラックパンサーやアントマン、MCU版スパイダーマンなどの新キャラクターを大スクリーンに登場させたときも、他の作品との相乗効果が生きていました。
それはそれで楽しいのですが、シャンチーのように観客が他の映画を意識することなく、自分の足で完全に立っている映画を見るのはとても新鮮です。

そういった意味でほぼオール東洋人キャラで引っ張ってきたこの映画の試みはある意味冒険であり、新しいチャレンジだったと思います。そしてそれは見事に成功しています。
MCUを含め、成功した作品の続編・スピンオフ・再起動が当たり前となった昨今の映画界では、異例とも言える成果ではないでしょうか。


とはいえMCUファンならわかるでしょうが、しっかりMCUの初期作品へのオマージュがあります。ネタバレしない程度に言うと、これらの引用は、複雑なバックストーリーを覚えておく必要がなく、物語的にも意味があり、そして何よりも面白いのでOKです。(これはわかる人だけわかっていればいいだけの話です。)

それにしても、アベンジャーズの人気者すべてを休ませただけでなく、本作自体が視覚的にも物語的にも既存のフランチャイズとは異なるものになっているのは大したもの。




アメリカ人には「シャンチー」がジャッキーチェンのカンフーアクションの系譜にしか見えないかもしれませんがこの映画は、マーベル初のアジア人の主人公であり、映画のスタイルは、武術映画、ギャング映画、ロマンスなど、アジア映画の豊かな歴史、特に武侠映画の豊かなビジュアルと感情的なスタイルを取り入れています。これが欧米の大スクリーンで広く公開されたことは映画界全体にとっても大変意義があるのです。


サプライズに長けたMCU映画

最近のディズニー・プラスの番組「ワンダビジョン」や「ロキ」と同様に、「Shang-Chi」の最大の強みは、驚きを与える力です。新しい文化のスーパーヒーロー的な神話や伝説を描くことで、『ブラック・ウィドウ』のような馴染みのある作品にはない新鮮さを与えています。
これもネタバレになりますので書きませんが、冒頭からのアクションでカンフー映画を見ていたつもりが、後半からひっくり返ったような展開で、固定概念を揺るがされます。


でも鑑賞者は何も身構えることはありません。素のままの、ご自分の先入観だけ持って映画館をおとづれてください。暴走するバスの中で、シャンチーが初めて武術を披露した瞬間から、映画はアクションに徹していきます。
戦闘シーンは、ジャッキー・チェンとよく共演していた故ブラッド・アランがコーディネートしており、セットプレイでのパンチアップは、ハリウッドの超大作ではほとんど見られない活気に満ちています。
シャンチーの妹はじめ、それぞれのキャラクター、それぞれの戦いには個性があり、それが戦いのスタイルとして表現されています。
実際、主人公の成長は戦い方の変化に象徴されており、これは巧みで満足のいくビジュアル・ストーリーテリングです。
(私はもう一度この映画を見返して、シャンチーの戦いぶりのアップグレード感を確認したくてたまりません。)





視覚的には、中国映画の鮮やかなスタイルを利用していないときは、マーベル映画に見られるような淡白な撮影も見られます。また、CGの使用は、蛍光色の派手さを加えていますが、ある種の視覚的な麻痺をもたらしています。
確かに、神話上の生き物や空想上の超能力をCGで表現するのはいいのですが、背景までもが明らかにCGだと、アクションのインパクトがなくなってしまいます。(登場人物が野原でおしゃべりしているだけなのに、その野原が明らかに現実ではないという場面もありました。特にラストの超大規模バトルシーンは、CGによる光の演出が過剰すぎ、いささか長くなりすぎました。ああいった非現実なクライマックスは一瞬でも良かったのではないでしょうか。

また、CGの背景のアニメ的な光沢の中で大々的な戦いが行われると、出演者の技術や運動能力が失われてしまうことに気づきました。ジャッキー・チェンの格闘シーンのように、スターやスタントマンが実際に車やビルの側面を飛び跳ねているような、息を呑むような、あるいは身震いするような迫力には及びません。あれは生活感豊かな場所でのアクションだからこそ活きていたのですね。

とはいえ、マーベルのいいところも十分に発揮されています。この映画も他のMCU作品同様、随所に笑えるユーモアがあって、その緩急がエンターテイメントとしてよく機能しています。それらはとても面白く、Awkwafinaをはじめとする様々なゲストスターがその場のシーンの主役になっています。

そして何よりも、本作は全編魅力的なキャラクターに支えられています。かつて「ガンジー」を演じた名優ベン・キングズレーが「アイアンマン」以来のコミカルな俳優役で登場し、観客を沸かせます。かつて例外的に欧米でも大ヒットした中国ファンタジー「グリーン・デスティニー」のヒロイン、ミシェル・ヨーも存在感のあるメンター役で登場します。

またMCUでは、スーパーヒーローものの定番である "秘密の正体 "をほとんど扱っていませんが(近日公開予定の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を除く)、『Shang-Chi』では、アジア系アメリカ人の経験というレンズを通して、2つの異なる自分を生きることの難しさを再構成しています。
デスティン・ダニエル・クレットン監督の手にかかると、『The Legend of the Ten Rings』は、マーベルによる過去作の不足や失敗を慎重に修正しているのがわかります。中国の家族や文化を細やかに描いており、アジア系の視聴者からは、その温かさと信憑性が高く評価されていると聞きます。




そういった中、、キャラクターの力関係から、ほとんど新人の主人公Simu Liuは苦境に立たされているようにも見えます。初見では多くの人が
Simu Liuに対し「華のない主役」という印象を抱くでしょう。
トニー・レオンは無敵の俳優であり、Awkwafinaはコメディ部分をリードし、Meng'er Zhangはシャンチーの妹としてより説得力のある感情的な役割を演じています。
また、フラッシュバックやボイスオーバーを多用し、見た目の異なる二人の子役の違和感も払拭できません。このためLiu自身の存在感が薄れてしまっています。
とはいえ全体で見れば、彼は全編出づっぱりで頑張っており、MCUの主役という大役で目まぐるしく動き回るバカな男として、十分魅力的です。私は主役としての重責を及第点でクリアしてると思いました。

今回、彼の最初の冒険では、終始自分がマーベル映画を見ていることを忘れてしまうほどでしたが、最後のエンドクレジット直前で、これがMCU映画の一つであることにひき戻されます。これからきっと「Shang-Chi」はマーベルの神話の中で忘れられない存在になる運命にあるのでしょう。
友達とワイワイ語り合うのもよし、パートナーと二人きりでもよし、もちろん家族連れでも楽しめる極上のエンターテイメントです。とにかく2時間12分が夢のように過ぎました。
まさに続編熱烈歓迎映画であります。

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