2020年6月21日日曜日

何が売れる?このアメリカ

米国で売れるものを探す


 


 十年ほど前ですが、ニュージャージーで知人のB&Bのビジネス立ち上げを手伝っていたことがあります。オーナーである彼は、日本からくる旅行客やビジネスマンに快適な宿を提供することに熱心でした。

 建物はマンハッタンが川の向こうに一望できる瀟洒な一軒家です。2階と1階が分かれていて、それぞれ独立しているので、二階の4つの部屋を独立させ、キッチン、リビングを共有する宿として提供しました。そこからだとバスで20数分でマンハッタンに着きます。見晴らしのよさもあって、口コミで利用客が増えました。中には数週間中期滞在するお客さんもいて、年間を通じてコンスタントに予約が埋まっていました。

 しかし彼の頭の中ではB&Bはビジネスの一部にすぎないようです。同時にいろんなビジネスの可能性を考えては実行、改革、撤退、再チャレンジを繰り返していました。



 彼は旅行会社を脱サラして、いわゆる「せどり」ビジネスで一定の成果を上げていました。コストコのような量販店から優良品の情報を得て、アメリカ国内で売りさばくのです。初めはアメリカで何が売れるのかもわからず、試行錯誤だったと言います。彼曰く、この仕事は情報収集とコネと目利き。いかに情報を得て、どれだけ迅速に行動するか。ある程度経験を重ねないと、うまく回らない仕事だそうです。

 まあそうでしょう。朝から晩まで軽トラックで行ったり来たりしている彼を見ると、副業ではとてもできそうにありません。

 しかし、働くのが好きな彼は、それ以外にもいろんな分野に挑んでいました。

 彼の発想はなかなか面白く、当時いっしょにいろんな議論を交わしたものです。

 彼の持論では、世の中でヒットする商品は、ゼロから発明する必要はなく、オリジナルの改良版でよいというのです。日本の売れた製品も元祖を改良したものが大半です。   ちょっとしたアイデアを加えて新しい物として売りだす。そういう考えなのです。

 例えば日本では酔い止めの薬は、小さな紙のパッケージで売られています。そしてわずか6錠や8錠入りで売られるのがふつうです。ところがアメリカではプラスチックの瓶入りが主流で、ひと瓶50錠や100錠で売られています。

 酔い止めを必要とする人には、大きく2種類あって、旅行直前に必要なぶんだけ買い求める人、そして仕事上常用的に必要な人たちです。日本は前者のものしかなく、大容量の商品も需要はある、というのです。なるほど目の付け所は良かったのですが、けっきょくこれは実現しませんでした。メディカル関連の商品は、国家間で輸出入に厳しい制限が設けられています。そう簡単に実現できるものではなかったのです。でも彼は諦めていないようです。他の分野でも、日本でまだ普及していないが、アメリカでは売れている、そういった物を始終さがいているのです。

 他にも現在彼が取り組んでいるのは、傘の改良です。

 彼の言うところによると、傘というものは基本、昔から進化が止まっているというのです。西洋で17世紀ごろ、現代の形になって以来、大きな変化は、折りたたみ式になったことだけなのです。21世紀科学がこれほど発達したにもかかわらず、傘は原始的なママなのです。

 彼がそれを痛感したのは、日本の梅雨時期の通勤にうんざりしたこと、妹の住むシアトルも雨が多くて、生活が大変だったことを挙げています。

 傘は、何より雨を防ぐにはとても不完全な物です。片手が常に必要で、しかも足元までカバーされません。強い雨だと膝から下はビショビショになってしまうのは200年以上改良されていないということです。

 なるほどです。

 それで常日ごろから、彼はいろいろと研究しているのです。アメリカ人にも同様の思いを抱く人がいるようで、そういう人と意見交換もしています。送られてきたPDFのアイデアを見せてもらったら、頭に装着する日傘を拡大したような変な傘や、結局コレ雨合羽じゃない? と思うような物もあります。中には全身を防水するスプレーなどというSF的なもあります。思わず笑いそうになりましたが、そのうち思わぬヒット商品を生み出すかもしれませんね。

 ともあれ、彼はいろんなことにチャレンジしています。

 B&B立ち上げ当時、彼の運営する宿のひと部屋は、段ボール箱でぎっしり占有されていました。

 聞くとそれは以前やっていたネットワーク・ビジネスの商材とのこと。洗剤や調理器具、ホーム・グッズなどのパッケージが天井まで大量に積み上げられていました。

 ひょっとしてアムウェイやってるのか? と聞くと、彼は言葉を濁し、似たようなものだと言いました。どうやら類似のネットワーク・ビジネスに手をつけて、在庫をだぶつかせてしまったようです。アメリカは当時この手のネズミ講のようなビジネスが横行していて、散財した人を量産していました。彼は認めはしませんが、どうやらその犠牲者の一人だったようです。

 彼は苦い顔をしながら、これはもう売れない商品ばかりなので処分すると言っていました。しかしその中に、大きな段ボール十数個分の使い捨てマスクがあったのを覚えています。

 コロナが流行るはるか前のことです。

 少なく見積もっても、段ボール箱の中に千枚単位のマスクが入っていたと思います。それが10箱以上ありました。当時、彼はこのマスクを処分するか迷っていたようです。

 日本では花粉症対策で昔から必需品でしたが、アメリカではマスクの習慣がなく、全く売れなかったのです。彼はいつかアメリカでも売れるようになるだろうと、期待を抱いてストックしていたのです。しかしついに彼はB&Bのビジネスのために、全部二束三文でリサイクル業者に処分してしまいました。

 まさかのちにコロナで品不足にまでなる商品とは思わなかったでしょう。さぞ悔しい思いをしたことでしょうね。


 とはいえB&Bの方は、3年という短い間でしたが、相応の利益をあげたそうです。いまはもう人手に渡りましたが、彼といろいろとアメリカで成功する夢を語り合ったことはいい思い出で、今後もなにかの役に立つと思っています。


0 件のコメント:

コメントを投稿