2020年6月25日木曜日

いま読むべきノンフィクション

今、アメリカで話題の本 


 アメリカの元大統領補佐官ボルトンの暴露本がもうすぐ発売になります。発売に先行して、一部内容がリークされたり、大統領側が発売差し止めを請求したりと、何かと話題満載のようです。日本政府にも関連することが含まれているらしいため、日本の外交筋のも戦々恐々のようです。

 これが出ると、本の話題はこれに全部持っていかれそうなので、現時点で私はまだ読了していませんが、今のうちにご紹介しておきたい本があります。




 ここ数週間、アメリカの書籍ベストセラーの中ですごく高い評判になっている本です。


「Countdown 1945」

 ウォールストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズなどのメジャーなブックレビューでも多数取り上げられ、多くの賛辞が寄せられています。

 作者のクリス・ウォレスはベテランのジャーナリストであり、フォックスニュースサンデーのアンカーとして有名です。この本は事実に基づいたノンフィクションですが、それぞれのエピソードは、まるでスリリングなドラマのように進行していきます。


  厚めの本ですが、会話形式を多用しているので、比較的読みやすいと思います。

 この本で次々と明るみにされる、歴史の埋もれた事実は、アメリカ人にとっても驚異を持って読まれているようです。いくつかのレビューをあげると、


:本書はヒロシマへの最初の原子爆弾の歴史的投下に至るまでの日々を伝えました。原爆投下は恐ろしい結末の選択です。終わらない死、喪失、惨めさ、そして悪夢しかありません。これを読んで、爆弾を投下することを決定するプロセスがわかりました。


:私は、原爆を使って日本との戦争を終わらせるという、トルーマンの決定に疑問を抱いたことはありません。それはシンプルで明確な(しかし苦痛な)戦争における計算の結果です。この本は、トルーマンの視点からだけでなく、科学者、乗組員、工場労働者などの視点からも、時代の不確かな現実を浮き彫りにしています。


:ウォレス氏は、人類史上最も重要で、世界を変える決定のひとつを描き、読んで釘付けにされるような書物を発表しました。それは学校で必須の歴史コースでなければなりません。





 世界初の、原子爆弾の使用に至るまでの116日間に何がどう進んでいたのか。

 本書では、あの日8月6日1945年の広島への原爆投下まで、まさにタイトル通り刻々と事態は展開して行きます。結果を知っていながらも、読んでいてまさに「なんとかならないのか」と言う気持ちでした。

 本書は様々な証言と資料から、バラバラなエピソードを、巧みに一つのテーマににまとめ上げています。それはさながらある章では産業・謀略小説、また別の章ではある種の歴史スリラーのようです。

 あの運命の最終決定に至るまで、世界中で秘密の会合がなされていたことが語られます。今まで断片的にしか伝わっていなかった数多の史実が、この本によって一つの悲劇的な結論へと進行していくのです。

 例えば、この歴史の一番大事な局面に突如、副大統領から大統領に昇格し、原爆の事実を知らされるトルーマン大統領。取り巻く環境が、じわじわと彼に重大な決断を迫る場面はとてもリアルです。

 アメリカにはアメリカの立場があり、それも多面的に描かれています。前線で戦う兵士は、日本本土で死ぬかもしれない恐怖に直面していました。何としても自国の犠牲を最小にして終戦に持ち込みたい、その焦る気持ちはわかります。しかし原爆の威力は当時、まだ誰も知らない、理論上の兵器だったのです。ましてやその投下後の長い年月に渡る苦しみを、一体誰が予測できたでしょうか。

 当時アメリカには日本に対する異なるイメージがあったと言います。

 一つは、狂気のごとく戦争を拡大する、何を考えてるのかわからない野蛮で危険な存在。もう一つは国力の現実を知らない哀れで無知な田舎者。特に日本を前者として捉える輩にはもう原爆しか選択肢はなかったのでしょう。そして一方もまた大戦後の世界戦略としてやはり原爆投下は理にかなう決断だったのだと思います。

 筆者はなるべく偏った作品にならないよう気を配ったのでしょう。原爆に否定的な立場も含め、様々な思惑が交差してストーリーは進行していきます。アメリカでのレビューの多くは感動的な内容だと伝えますが、それは戦勝国ならではの感想でしょう。私個人的には複雑で苦しい思いに囚われました。それでも読むべき内容は十分にあると思います。私に史実か否か検証するすべはありませんが、ここに書かれたことは概ね事実だと感じます。

 この本、いずれ日本でも翻訳版が出るでしょうが、多くの日本人はこの本をどう読むのでしょうか。邦人にとってはセンシティブな表現も散見され、否定的な意見も予想される内容です。ただ当時アメリカにいて原爆に関わった日本人の事や、広島の生存者のエピソードにも触れられている部分は評価できます。何れにせよ、本書を手に取れば読まずにはいられないでしょう。特に最近、「この世界の片隅で」や「永遠の0」を読んできた身としては、その同時期にアメリカで何が起きていたのかを知ることは重要だと感じます。 本書はまさに「人と歴史の裏表=無常」と言う感慨を抱かせる、いま読むべき本です。


 ちなみに、本書と重なる部分の多い、「デイ・アフター・トリニティ 」(The Day after Trinity)という映画も合わせて観るとより理解が深まります。 こちらは原爆製造を主導した、マンハッタン計画と科学者ロバート・オッペンハイマーの半生を綴ったドキュメンタリー映画で、1980年にアカデミー賞を獲っています。

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