2020年6月12日金曜日

新観光地ビーコン

ニューヨーク探訪:ビーコン編


 「マンハッタンからそう遠くない場所で面白いところはないか」

 ブルックリンとマンハッタンを往復する毎日の元同僚に訊かれたことがあります。

 「Beaconが今、来てるよ」

 私がそう言っても彼は知りませんでした。ニューヨーク生活の長い人でも、あまり知られていないホットな町です。いま再開発が進行中で、とても楽しめるスポットの多いこれから「来る」であろう町なのです。

 ビーコンは、マンハッタンのグランドセントラル駅から、メトロノースという電車で1時間半ほどのところにある、ハドソン川沿いの小さな町です。

 この町はここ10年くらいでアートの町として大きく様変わりしたことで、各所から注目されています。





 20数年前までは、このハドソンバレーと呼ばれる地域の中でも、治安が悪くて住むのを躊躇う場所でした。ギャング集団が町を縄張りにし、ドラッグを売り捌き、窃盗や暴力沙汰が絶えない町でした。あまりの荒廃ぶりに、住民は次々と逃げ出し、にぎやかだったメインストリートも空き家だらけになっていたそうです。

 21世紀に入ってなんとか町を立て直そうという気運が高まり、様々な議論、試みがなされました。いまでも古き良きビーコンの町並みを守りたい派と再開発派で意見が別れ、激しい議論の最中です。

 しかしすでに再開発の成果はじわじわと現れてきています。

 町のはずれにあった食品工場跡地は、「ディア」”Dia:Beacon”という巨大な近代アート美術館として生まれ変わりました。建物には世界一線級のアーティストの作品が随時更新しながら展示されています。外庭も芸術的な美しさで、その場を離れるのが惜しくなるほど寛げる場所です。




 駅に隣接する川沿いにある公園名は、この町に長く住んでいた伝説的フォーク・シンガー、ピート・シーガーにちなんで、彼と日本人の奥さんの名前を冠しています。緑豊かで、散歩にもってこい。季節ごとに、ストロベリー・フェスティバルやコーン・フェスティバルなど、露店で賑わうお祭りが、市民に好評です。




 ヨットハーバーもあって、帆を立てて進むトールボートや、対岸を往復するフェリーもあります。カヌーやカヤックを楽しめる設備も整っています。

 駅前にはごく最近建てられたアパートが数棟あります。ハドソン川を一望できる風光明媚な立地が評判です。マンハッタンなどと比べると、とてもリーズナブルな価格でレンタルされるのですが、入居はアーティストを優先的にしているそうです。町にアーティストを呼び込んで、芸術文化の豊かな地域にしようという意志の現れでしょう。

 入居条件は絵画、彫刻にとどまらず、音楽家や俳優などのパフォーマンス系、美術商、造園業、手芸家など、なにかしらアートに関連した仕事でもいいそうです。私の知り合いは、元美術教師ということで入居できました。

 この町をアートの町にしようという機運は町の随所に見受けられます。

 駅の近くには「ビーコン・ポップマート」というコミック・アートを販売・展示する、奇抜なデザインのアート・スタジオがあります。




 メインストリートに入るとすぐ、巨大な壁画やヘラジカのオブジェが目を引きます。目玉となる店も沢山あるなか、ひときわ賑わうのが「ハドソン・ビーチ・グラス」です。アートでおしゃれなガラス細工の店ですが、工房をオープンにして、制作過程を見られる仕組みが好評です。遠くツアーを組んで見学に来る客もたくさんいます。

 おしゃれなカフェやB&Bなども立ち並び、このメインストリートをウインドウ・ショッピングするだけでも楽しいものです。

 とくに土日の賑わいを見ると、かつて廃墟寸前までいった町とは思えない復活ぶりです。

 メインストリートには、日本食レストランや国籍不明のラーメンを看板に描いた店も。

 おすすめはギフトならチョコレート専門店の「アルプス・スウィート・ショップ」。寄り道しておやつなら、お好みの味にアレンジできるアートなドーナツ専門店「グレイズド・オーヴァー・ドーナッツ」が大好評。行列ができる人気店です。。

 メインストリートにはライブの音楽を聞きながらディナーを楽しむレストラン「タウン・クライアー」や、伝統的なダイナーで地元に人気の「ヤンキー・クリッパー」が一押し。

 新進アーティストが展示できるアート・ギャラリーも立ち寄って見ると楽しいですよ。

 またメインストリートは時折、道の一部をを閉鎖して歩行者天国になります。そのつど出店で賑わうのですが、なかでも年に一度のドッグ・フェスティバルは見どころの一つ。何百匹という犬たちが、飼い主と一緒にストリートを練り歩く様は圧巻。着飾ったワンちゃんたちがとてもアートで愉快です。




 メインストリートの最後には、開発最大の目玉となるホテル「ラウンドハウス」があります。古くからあるレンガ造りの空きビルを徹底改装したもので、近年外国からも多くの観光客が宿泊するようになりました。まさにディア美術館とともに、ビーコン発展のシンボルと言える建造物。お泊まりならここは満足保証付きです。


 ビーコンは町以外にもハイカーが喜ぶ見晴らしのいいトレッキングコースやゴルフコースもあります。知らない町を楽しむ醍醐味を、ぜひ味わってみてください。


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