2020年6月8日月曜日

日本の知名度

アメリカで何がウケるのか


 歴史的に見て、政府であれ民間であれ、日本文化の海外への発信力は、それほど強いものとは言えませんでした。ちかごろは、政府主導でクールジャパンなどと銘打って、日本の文化を海外へ広める機運は高まっているようですが、どうでしょうか。

 いまのところその効果より、以前からの民間レベルの交流のほうが、大きな功績を残していると思います。でもそれだけでもまだ微々たるもの。

 実際の歴史は、経済主導で日本の文化が海外にもたらされてきたと言っていいでしょう。

 国際社会を生き延びるため、日本は何が必要なのか、模索していきたいと思います。


MADE IN JAPAN


 米国においては、やはり自動車産業への参入が最大のインパクトでした。70年代に入り、トヨタ、日産、ホンダと、国産メーカーがこぞって本格的に自動車大国アメリカにターゲットを絞り、輸出をはじめました。当初は華奢な車体、貧相なデザインで受けは良くなかったと聞きます。しかしじわじわと品質の良さをウリに、粘り強く営業努力を重ねていった結果、安定した品質、壊れにくさが評価されはじめました。トヨタ現地工場での「改善」という概念がアメリカの労働者にも受け入れられ、やがて本家本元の米国車を打ち負かしていったのです。

 


 これで日本はモノを作ることに長けた国、との印象を強く与えました。

 続いてSONY、パナソニックをはじめ、家電メーカーが高品質低価格のオーディオ製品を米国に投入。これもまたたく間に米国民に受け入れられました。決定づけたのはウォークマンですが、それ以前にも、ラジカセが若者の文化に浸透していきました。

 ラジオに録音機能付きのカセットテープをつける。この発想こそ日本製品ヒットの要因です。ラジオもテープレコーダーも他国の発明ですが、それをまとめる発想がすばらしい。オリジナルのアレンジで、新たなオリジナルを作るというのが日本流なのです。

 さらにビデオカセットテープとプレイヤーがセットになったデッキが登場、アメリカのほぼすべての家庭に定着しました。

 VHSビデオテープの主流化は世界じゅうに拡大し、それまで映画館へ行っていた人々が、家で映画を観、テレビ番組を録画するという、それまでにないライフスタイルをもたらしたのです。 

 クルマとエレクトロニクスの分野で、日本技術の優秀さを強烈に印象付けたかたちです。

 他で言えば、カメラ業界も20世紀半ばからメイドイン・ジャパンが世界を席巻し今も王座に君臨しています。精密機械は日本に限る、そんなイメージが定着したのです。

 世の中にデジタルが導入されると、すかさずその分野でもトップを取りに行きます。大ヒットしたカシオの腕時計Gショックなどがその例です。


 そして日本発でその実力を決定づけたのが言うまでもなく、コンピューター・ゲームの分野。

 任天堂、ソニーなどが開発、販売したゲーム・プラットフォームはアメリカの子どもたちを熱狂させました。改良され発売されるニューモデルも悉くヒットさせ、子どもたちの生活様式、ひいてはものの考え方にまで影響を与えてきたのです。この分野ではXbox以外、追従する強豪はないのが現状で、今後も業界を牽引し続けていくでしょう。


 いっぽう化粧品やファッションの分野では、欧米よりむしろアジア諸国に影響を与えていきました。いずれも品質の良さが既存の製品を圧倒し駆逐していく、正統派の攻め方でした。

 でもこの分野、アメリカでは必ずしも成功したとは言えません。日本・アジアでは無敵のユニクロもアメリカでは苦戦しています。化粧品も資生堂などはトップレベルの品質で知られていますが、アメリカでシェアを伸ばすことは今も難しい状況です。

 品質だけではトップを取れないのです。マーケティング云々を言うよりも、自動車や家電のようなダントツ感がないのです。僅差の戦いになると、地の利が働きます。アメリカ国民のハートを射抜くような、圧倒的なアイデアが必要なのです。とくに女性をメインターゲットとする化粧品、ファッションの分野においては、おしゃれなデザイン、トレンドの先取り感などで、どうしてもアメリカに一歩譲ってしまいます。

 こういったものは、日本からの直輸出ではなく、当地に開発基地を置き、ニーズに応える抜本的な再編成、対策が必要でしょう。

 決して米国に遅れをとる分野ではないので、今後の活躍に期待がかかります。

  

 これらの超有名な業界だけでなく、アメリカの多くの人に認識されている日本のブランド、商品はまだたくさんあります。

 食品ではグリコのポッキーや、森永ハイチュー、キッコーマンの醤油などが有名。キャラクター・グッズならハローキティがダントツ。バイクはスズキにカワサキ、文具はパイロット、ビールはキリン、タイヤはブリジストンなどなど。他にもいっぱい日本の製品はアメリカに根付いています。

 実力の割に名前が浸透していないNTTやソフトバンク、楽天、メルカリなどは今後の頑張り次第で、アメリカにも普及する可能性があります。

 子どもたちの世界ではジブリもなかなか健闘していますが、ポケモンやドラゴンボールのように「みんな知ってる」というところまでは行きません。近年ではやはりテレビアニメが世界標準として若者中心に定着しつつある。そんな印象です。


 以下のものも同様に、かなりメジャーではあるが、誰でもというほどではない、日本発の人や物です。


イチロー選手:メジャーリーグファンならもちろん誰もが知る、しかも最高部類に入るレジェンドです。しかし野球に興味のないアメリカ人も結構います。知らない人も多いです。


カラオケ:80年代に、一時ブームになりかけました。アメリカの辞書に載ったことでも話題になりましたが、日本のようなカラオケボックスの文化には程遠いです。聞いたことはあるけど行ったことがない、が大半を占めるでしょう。


回転寿司:お寿司自体は広く知られていますが、魚を食す習慣が少ないので、店舗も大都市に限ります。テレビで紹介されたりして認知度はそこそこありますが、行ったことのある人はきわめて少ないでしょう。


割り箸:アジア系レストランの大半で使用されてます。日本の発明品なのに中国発と思われています。九割以上がメイド・イン・チャイナなので仕方ないのか。


豆腐:健康志向の高まりから、大きなスーパーではどこでも売ってるようになりました。ハウス食品の全米制覇といっても過言ではないでしょう。


ゴジラ:ハリウッド映画化されてから知った若い世代、それ以前から知ってたオールドファン、数世代に渡って親しまれてきた歴史があります。認知度はかなり高いほうです。


小島秀夫:ゲームの世界ではマスター、師匠と崇められています。ファンたちの間でつねに彼の言動や新しい情報が行き交い、ニュースが出たときはSNSがおおいに盛り上がります。如何に彼の影響力が強いかがわかります。


孫正義:ビジネスの世界では注目もありますが、基本、関係者以外、誰も知りません。


近藤麻理恵:お片付けのカリスマとして、今やアメリカではオノ・ヨーコより有名な日本人女性。本のベストセラー、さらにテレビで主役。アメリカ女性のニーズに完璧マッチした稀有な成功例です。


今後に期待

 個人的に一番残念なのはショー・ビジネスの世界。日本でハリウッド俳優と呼ばれる渡辺謙や真田広之のことをアメリカ人に聞いても誰それ?って言われます。アジア系住民が溢れているニューヨークにしてその程度の認識。言葉の壁もさることながら、プロダクション挙げてのより積極的なアプローチが必須だと考えます。 

 ポピュラー・ミュージックの分野に至っては、日本のアーティストっているの?って感じです。これまでもたくさんの日本人アーティストが、米国音楽業界に進出しようと挑んできました。矢沢永吉、YMO、X-JAPAN、久保田利伸、ドリカム、宇多田ヒカル、ONE OK ROCK。それなりに頑張ってるけど、なかなか結果に結びつかないのが現状です。

 最初にして最大のヒットとなった1961年の坂本九”SUKIYAKI”(上を向いて歩こう)を超える楽曲はいまだ出ていません。この曲、ビルボード・チャートで三週連続一位という快挙。アジア全体でも近年韓国のBTSが大ブレイクするまでこんなことは皆無でした。

 ぜひ新しい世代で世界基準のアーティストが出てきてほしいものです。


 以上駆け足ですが、日本文化の「アメリカでのメジャー化」を念頭に過去、現状を俯瞰してきました。私の思うところ、日本は技術では昔も今も世界のトップレベルを維持しています。近年足りないのはフレキシブルな先取感覚とアグレッシブさと考えます。iPhoneやサムソンの成功を見るまでもなく、日本は本来なら、通信分野でもトップを獲れる実力・技術力があります。なのに旧体制の呪縛からの脱却で、決定的に出遅れてしまいました。これを巻き返すには根本的な技術革新、かつてない営業施策が必要でしょう。

 通信の分野に限らず、日本のモノづくりの素晴らしさは、日本人特有のクリエイティブ・マインドにあると思います。つねにユーザーありきで、「人を幸せにする」ものを作ろうとする優しさが秘められているのです。

 今後の奮闘に期待いたします。


0 件のコメント:

コメントを投稿