2021年5月25日火曜日

2020 お勧め洋楽ロック その2

サムズアップ・アメリカ!
2020年に出た最高のロックアルバム

前回に引き続き、2020年に発売された洋楽の中からお勧めする、最高のロックアルバムをご紹介します。


The Strokes:The New Abnormal

Album review: The Strokes - "The New Abnormal" | The Young Folks

10年近く音楽活動を休止し危うく伝説になりかけた「The Strokes」がニューアルバムを携えて帰ってきました。ああ、これだけでも拍手喝采です。
「The New Abnormal」は、これまでのストロークスの作品の中で、最も実験的で境界を押し広げる作品です。このアルバムは、The Strokesが未だに最高のリフメーカーであり、そのエッジを失っていないことを改めて証明しています。The Strokesのニューアルバムは長い曲が特徴で、メンバーそれぞれが単独で、また集団として輝く時間を与えられています。この9曲は、ストロークスの全盛期を思い起こさせるようなアドレナリン爆発のような曲ばかりではありません。しかしリスナーを呑み込むような饒舌なマキシマリズムをたっぷり提供しており、彼らの持ち味サウンドに新しい時代のスタイルとカリスマ性がミックスされて復活していると思います。

バンドにとって7年ぶりとなる6枚目のこのアルバムは、私たちが今直面している、コロナ禍の異常な現実を反映しています。このアルバムではフロントマンのJulian Casablancasは、メロディアスな楽観主義に背を向けました。
冒頭の「The Adults Are Talking」では、カサブランカスが「They will blame us, crucify and shame us / We can't help it if we are a problem / We are tryingin' hard to get your attention」と歌っており、まるでZ世代(1996−2012年生まれの世代)を代表しているかのようです。若者たちは、気候変動や人種差別、政治活動について声を上げているにもかかわらず、過激すぎて既成の理想に適合していないと嘲笑されている世代です。

「Bad Decisions」では、カサブランカスがいつものように淡々と「I'm making bad decisions / Really, really bad decisions」と歌い、「Yeah!」と長く叫んで肯定しています。聴き流してもいいのですが、これは結構深読みもできます。
これは、コロナウイルスが大流行している中で、多くの人が共感できる内容だと思います。私たちは、この新しい生活様式にうんざりしており、この反動がやってくることを十分に認識しています。その上で人々はリスク承知で、縛られたルールを破り、安泰を得ようともがいているように見えます。
「At the Door」では、カサブランカスが「I can't escape it / Never gonna make it / Out of this in time / I guess that's just fine」と歌い、世の中の現状に対し譲歩しているようにも読み取れます。

これは、アメリカ生活の新しいパラダイムの中で、多くの人々が感じている実存的な恐怖に対する、どちらかというと淡々とした反応かもしれませんが、明らかな教訓も提唱しています。自分でコントロールできないことに対抗する最善の方法は、リラックスして微調整していくこと、だと私は受け止めています。

言うは易し、行うは難しですが、今の世の中の混乱をThe Strokesは「気にしないこと」と達観しているようで、私たちの一歩先を行く凄さを、改めて音で聴かされた感じがします。



Pearl Jam:Gigaton

Pearl Jam – Gigaton (2020, Vinyl) - Discogs

このバンドももはやレジェンド級です。世代を超えて愛され続ける不滅のバンド、パール・ジャムが数十年ぶりに最高のアルバムを発表しました。

パール・ジャムの11枚目のスタジオ・アルバムであり、7年ぶりのアルバムです。アルバム「Gigaton」に対する私の期待は、あまり高くありませんでした。というのも、かつての傑作「Ten」や「Vs.」などの初期のアルバムが、自分にとってパールジャムの頂点であり、それを超えることはもはや無いだろうという諦観があったからです。

しかし、フロントマンであるエディ・ベダーの強力なソングライティングのおかげで、「Gigaton」はバンドの栄光の時代を彷彿とさせる、実に革新的でスマートなレコードに仕上がっています。 あえてそれらの「前作を超える」とは言いませんが、肩を並べ得る良作です。

バンドの最長アルバムである本作には、90年代にパール・ジャムを有名にしたジャム調のバラードやグランジ・バンガーがふんだんに盛り込まれています。まずそれが嬉しい。「Superblood Wolfmoon」や「Never Destination」は、グループが基礎を築いたガレージ・グランジのヘッドバンガーのようです。

しかし、ギタリストのストーン・ゴサードが解説しているように、バンドは新しい領域も開拓しています。ディスコ風の曲「Dance of the Clairvoyants」では、バンドがより電子的なサウンドを利用していることを示しており、「Alright」という曲は、通常のアルバムのフィラーとは異なるローファイな実験的サウンドスケープとなっています。

とりわけ印象的なバラードの 「Seven O'Clock 」は非常に際立っています。
この曲のベダーの歌詞は、ドナルド・トランプ大統領を批判していると思われますが(「シッティング・ブルとクレイジー・ホース、彼らは北と西を鍛え上げた/そして君はシッティング・ブルを現職の大統領にした」)。
日本人の私には意味深でよくわからない歌詞ですが、彼のこれまでで最も詩的なものと評されています。

バンドは、彼の心に響く歌声の周りに穏やかなビートを構築し、過去20年間のパール・ジャムの曲の中で最も優れた曲になったと言う人もいるほど。まあこれは必聴でしょう。

「Dance of the Clairvoyants」では、ヴェダーが「数字はカレンダーの床から落ちていく/私たちは箱の中に閉じ込められている/窓はもう開かない」と歌っています。なんかニュアンスが伝わってくるでしょうか。私は好きですね、この雰囲気。聞くほどに味わい深まるこの珠玉のアルバム、間違いなく2020年を代表するアルバムです。



Bruce Springsteen:Letter to You

Album of the Week: Bruce Springsteen, 'Letter To You' | The Current

老境に入ったブルース・スプリングスティーンの傑作であり、失った友人を称える力強い歌声に満ちています。

ブルース・スプリングスティーンの20枚目のアルバム「Letter to You」では、シンガーソングライターは、新録音と未発表曲を織り交ぜて、政治情勢、加齢、そして(最も重要なのは)親しい友人を失うこと、について考察しています。

「ラスト・マン・スタンディング」では、スプリングスティーンが10代の頃に所属していたバンド、キャスティルズの最後の生き残りとなったことを振り返り、「Somewhere deep into the heart of the crowd / I'm the last man standing now」と歌っています。

「Ghosts」、「One Minute You're Here」、「I'll See You in My Dreams」などの曲では、Eストリートバンドのメンバーであるクラレンス・クレモンズやダニー・フェデリチ、アシスタントのテリー・マグオバンなど、失ったものと向き合う姿が描かれています。

彼の掠れたヴォーカルで絞り出すような歌声と相俟って、聴くものの心を鷲掴みにする切実さが込み上げてきます。

また、「Rainmaker」ではカントリー調のツイストに合わせて政治家の偽りの約束について歌い、「House of a Thousand Guitars」ではトランプ大統領を狙い打ち、「The criminal clown has steals the throne / He steals what he can never own.」と歌っています。

このアルバムの様々なテーマをまとめているのは、Eストリート・バンドのしっかりとした演奏です。スプリングスティーンのバンドは、信頼性の高いオールドスクール・サウンドを提供し、特に「Burning Train 」という曲で大きな成功を収めています。

ボスはこの曲に心血を注ぎ、その結果、見事なソングライティングによって命を吹き込まれた彼のノスタルジーに深く入り込むことができました。ブルースとバンドはこれまで以上に調和を極め、とても聞きやすい素晴らしい作品に仕上がっています。




Bob Dylan:Rough and Rowdy Ways

Everything is broken, and Bob Dylan is back to sing about it


ひとことで言えばこのボブディランの新作は、インスタント・クラシックです。

36枚ものスタジオアルバムとノーベル賞を含む約60年のキャリアを持つボブ・ディランは、これ以上何を語ることができるのだろう? そんな疑念も湧いてはいました。

いやはやこの御大、まだまだ語りきれない何かを抱いているご様子です。

この37枚目のアルバム『Rough and Rowdy Ways』で、ディランはぐるっと周りを見回し、この世で自分の使命がまだ終わっていないことを理解した、言ってるかのようです。

特に「I Contain Multitudes」のような曲では、インディ・ジョーンズやアンネ・フランクとユーモアを交えて比較しながら、自分が持っている無数のスキルを列挙するなど、彼の詩心が縦横に炸裂します。

「False Prophet」(偽預言者)では、"I'm the last of the best / You can bury the rest "という皮肉なセリフが効いています。

17分の大作「Murder Most Foul」は、このアルバムの中で最も目を見張るトラックです。ケネディ大統領が暗殺された日のことを振り返るところから始まり、国の人種問題を検討しながらウネウネと蛇行していく。この人はやはりノーベル文学賞を取るだけあって、どのミュージシャンにもできない芸当を披露してくれます。

そして「Rough and Rowdy」。この曲がなぜこれほど心に響くのか。言葉にすると安っぽいので、ただ聴くしかない、そんな一曲です。

組織的な人種差別、コロナウイルスの流行、政治的な抗議活動など、世間が様々な問題を抱えている中で、ディランは再び時代の流れを捉え、「今の時代は変化している」「私たちはもう1つのプロテストソングを必要としている」そんなことを語りかけてきたような気がします。

最後のおすすめは、

My Morning Jacket:The Waterfall II

My Morning Jacket - The Waterfall II (CD) – Good Records To Go


あの2015年の前作「The Waterfall」を受け継ぐ完璧なアルバムです。

マイ・モーニング・ジャケットの8枚目のアルバムである 「The Waterfall II」は、2015年の前作がまだ終わっていなかたことをリスナーに知らしめるような続編です。いや彼らにとっては続編ではなく、最初からあるべくして用意されていた「
The Waterfall」の完結編のようなものらしいです。

「Still Thinking」では、フロントマンのJim Jamesが、過去の恋人とうまくやっていけると思っていた「私はなんてバカだったんだろう」と後悔を歌っています。

タートルズの「Happy Together」のような陽気な曲から始まり、ピンク・フロイド風のインストゥルメンタル・ジャムに変わると、豊かなサックス・ソロと彼の伸びやかなファルセットによって、ジェイムズの痛みが解放されます。

続いて「Climbing The Ladder」では、ジェームスが幸せをつかむまでにはまだ長い道のりがあることを実感します。「Beautiful Love (Wasn't Enough) 」は、自分の心の空洞を誰かと一緒に埋められると思っていたが、それが適切ではないことを知っているということを認めているのかもしれません。

"Well you gave me the gift of another's love / Of a beautiful love / But it wasn't enough" と彼は口ずさみ、"Why is my bitter heart so demanding?" と問いかけます。

ドリーミーな最後の曲「The First Time」では、ジェームズはこう歌います。「アーメンと言ってもいいかな?/ と歌い、感情の起伏からようやく立ち直り、ずっと探していた愛を見つけたことを明かしています。 

バンドにとって前作がいかに思い入れ強かったのか、両方セットで聴くとより楽しめます。私もすっかり前のアルバムは忘れていたのですが、今回改めて聴き、このような大作だったことに驚きを覚えます。本来は2枚組で出すべきだったのかもしれません。しかしこうして時を経て熟成させたことで、かつてないスケール感、立体感でモーニングジャケットの存在感を再認識させられた、そんなアルバムです。


まとめ

こうやって2020年発表の力作アルバムを振り返ってみると、ベテラン、実力派が巻き返してきた年だったのだなと、再確認させられます。
まだまだいいアルバムがあったはずなので、また日を改めて、再検証してみたいと思います。


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