アメリカで読まれる日本小説
先日、National Book Awards(全米図書協会)の翻訳小説部門で受賞した柳美里氏。一瞬にわかに日本の小説が脚光を浴びた印象です。受賞作「JR上野駅公園口(Tokyo Ueno Station)」は現代日本の矛盾点を鋭く抉る快作として高く評価されたようです。
その他の日本の優れた小説も、今後どんどん英訳されていってほしいとも思います。こと文学に関して日本の対米関係はほとんど一方的な輸入一辺倒で、アメリカで日本小説のベストセラーなどはまだまだ遠い夢のようです。一つには翻訳の問題があるのかな。日本の込み入った文学的表現を、ニュアンスを変えず英語化するのは至難の業かもしれません。翻訳する人の人材不足ということもあるでしょうし・・・。
とにかく、アメリカではまだまだ日本人作家の大半は認知されていません。
ご存じのように毎年ノーベル文学賞の候補に挙がる村上春樹氏の一人勝ち状態が長く続いています。極端な話、アメリカでは村上春樹以外の日本人作家って誰も知らないんじゃないでしょうか。なんて・・・。
いやいやさすがにそこまではいきません。近年じわじわと英訳されはじめ、読まれている作家さんも少しはいます。
例えば吉本ばなな。英訳された本は電子書籍もふくめて20点以上出されています。日本同様「キッチン」が大評判となって以来、多くのアメリカ人ファンが彼女の新作を待ち望んでいます。独特の語り口をうまく英語に移し替えて翻訳のレベルも高いそうです。
ニューヨーク・タイムスの辛口書評で知られる角谷美智子氏からも「吉本さんの文章は明晰で、真面目で、心を揺さぶるものがあります。読者の共感をつかんで離さない」と絶賛されています。
一般のアメリカ人のレビューも共感型が多く「これは私が今までで一番好きな本の一つです! 素晴らしい青春物語で、私は一生そばに置いておきたいと思っています。多くのことが語られていて、本当に心地よくて素晴らしい本です。吉本さんの文章は、主人公のことを探りながら、正直で、地に足のついたものになっています。私はすべての登場人物と彼らの物語が大好きです」などと大絶賛。国籍を超えたシンパシーを得られる魅力を持っているようです。
次に桐野夏生。2004年に日本人女性作家として初めてアメリカ・ミステリー賞の最高峰エドガー賞の最終候補にノミネートされ話題となりました。じっさいこの時候補作の「OUT」はアメリカのミステリー小説界でも話題となりかなり売れました。 批評家受けもよく、「アウトは、日本女性に関する固定観念を打ち砕きながら、日本社会の暗い側面を興味深く観察している」とか「この小説は読む者の心を引き裂く恐ろしさがあり、アメリカの小説界では類を見ない」などと評価されました。
受賞こそ成らなかったものの、この一作により桐野夏生はアメリカの読書界に一定の評価を得て、以後つぎつぎと英訳し出版されるようになりました。
ミステリー界では東野圭吾の作品も人気があって、かなり翻訳が進んでいます。日本でも映画化され大ヒットした「容疑者Xの献身」が英訳されてクリーン・ヒットしたのはまだ記憶に新しいところです。英語タイトルは「The Devotion of Suspect X: A Detective Galileo Novel」。米アマゾンの評価でも999点で星4.5。傑作レベルの高評価を得ているのです。
翻訳という大きな壁はありますが、ミステリーや人間の心理、葛藤を描く物語は、時に国境を越えて共感を呼ぶ場合もあります。なので、ぜひとも良作が読みやすく訳されて、アメリカの書店に並ぶ日が来てほしいと思います。日本にはまだまだ魅力的な作家の作品がありますからね。
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