2020年12月20日日曜日

アメリカ版 2020年ベストミステリー

 ミステリー本 in USA: 今年の栄冠は


  今年も早や年末ということで、毎年恒例のミステリー本の年間ベストテンが各所から発表されました。日本では「週刊文春(文芸春秋社)」、「このミステリーがすごい(宝島社」、「ミステリが読みたい(早川書房)」あたりが有名ですよね。

 当然のことながら、海外編は欧米のベスト・ランキングとはぜんぜん違う作品が入ってきます。翻訳や版権獲得に時間がかかるため、2020年に発表された作品は日本ではランキングされません。

 今年翻訳されて上位にランクインした作品は本国でいつ頃出たものなのでしょうか。

 各ランキングで一位を総なめにしたアンソニー・ホロヴィッツの「その裁きは死」。こちらは本国イギリスで2018年に発表されたものです。アメリカでも同年ベストセラー・リストに名を連ねました。二年前のランキングで「カササギ殺人事件」(2017年初出)がトップになり俄然注目を集めた作家ですが、キャリアは長く、欧米では若者向けのAlex Rider シリーズが大人気の大御所ベストセラー作家です。日本で言えば東野圭吾のような存在でしょうか。

 今年のランキング上位は耳慣れない作家が多く、昔の常連との世代交代が始まっている印象です。また、ミステリーの世界でも多様化が進んでおり、長年英国、米国に偏っていた翻訳が、それ以外の国へと広がる傾向が顕著でとても喜ばしいことです。

 では今年のアメリカ版のベスト・ミステリ・ノベルのランキングはどうなっているのでしょう?

 ざっとメジャーなブック・ランキング・サイトを見てみました。



Washington Post

“City of Margins” By William Boyle

“Dead Land” By Sara Paretsky

“Djinn Patrol on the Purple Line” By Deepa Anappara

“Long Bright River” By Liz Moore

“The Missing American” By Kwei Quartey

“One by One” By Ruth Ware

“The Searcher” By Tana French

“Squeeze Me” By Carl Hiaasen

“Three Hours in Paris” By Cara Black

“Trouble is What I Do” By Walter Mosley



Five Books

Magpie Lane by Lucy Atkins

The Searcher: By Tana French

The Thursday Murder Club by Richard Osman

Troubled Blood by Robert Galbraith

Perfect Kill by Helen Fields

The Stranger Diaries by Elly Griffiths

Good Girl, Bad Girl: A Novel by Michael Robotham

Walk the Wire by David Baldacci

Forced Confessions by John Fairfax

November Road by Lou Berney

Smoke and Ashes by Abir Mukherjee

Death in the East by Abir Mukherjee

Joe Country by Mike Herron

What You Pay For by Claire Askew

Fake Like Me by Barbara Bourland

The River: A Novel by Peter Heller



New York Times

The Rabbit Hunter By Lars Kepler

Shattered Justice By Susan Furlong

The Evil Men Do By John McMahon

The Truants By Kate Weinberg

Perfect Little Childern By Sophie Hannah

Don’t Turn Around By Cait Monaghan

Hard Cash Valley By Brian Panowich

Please See Us By Caitlin Mullen

The Forger’s Daughter By Bradford Morrow

Lady Chevy By John Woods



Pan Macmillan

I Follow You by Peter James

Defend or Die by Tom Marcus

Daylight by David Baldacci

The Hidden Girl By Rebecca Whitney

Walk the Wire by David Baldacci

Our Dark Secret by Jenny Quintana

The Darkest Evening by Ann Cleeves

Find Them Dead by Peter James

If I Can't Have You by Charlotte Levin

The Half Sister by Sandie Jones

Sisters by Michelle Frances

The Last Trial by Scott Turow

One Good Deed by David Baldacci

The Secret of Cold Hill by Peter James

Girl in the Rearview Mirror by Kelsey Rae Dimberg

Recursion by Blake Crouch

Witness by Mandasue Heller

Black 13 by Adam Hamdy

Blood in the Water by Jack Flynn



Publishers Weekly

And Now She’s Gone By Rachel Howzell Hall

Black Sun Rising By Matthew Carr

The Cabinets of Barnaby Mayne By Elsa Hart

The Devil and the Dark Water By Stuart Turton

Eight Perfect Murders By Peter Swanson

The End of October By Lawrence Wright

The Familiar Dark By Amy Engel

The Forger’s Daughter By Bradford Morrow

The Golden Cage By Camilla Läckberg

Seven Lies By Elizabeth Kay

The Wicked Sister By Karen Dionne

Winter Counts By David Heska Wanbli Weiden



The Seattle Times

“Three Hours in Paris” by Cara Black

“A Private Cathedral” by James Lee Burke

“He Started It” by Samantha Downing

“The Last Passenger” by Charles Finch

“Last Dance” by Jeffrey Fleishman

“Just Watch Me” by Jeff Lindsay

“Pretty as a Picture” by Elizabeth Little

“The Finisher” by Peter Lovesey

“Long Bright River” by Liz Moore

“The Nightworkers” by Brian Selfon



 いやあ、驚きました。いずれも書評には定評のあるサイトのランキングなのですが、見事なまでにばらばらの結果です。当初これらをまとめて、高い票数から順位を付けて行こうと目論んでいたのですが、もうほとんどベスト3さえ挙げられないほど、票が散りすぎています。なにしろ出版点数がけた違いに多いので、よほどの話題作でなければ、上位を独占することができないようなのです。
 またひと口にミステリと言っても、クライム・ノベルから、超自然現象を扱ったもの、心理小説、実録もの、歴史小説、その他ジャンルを横断する純文学的作品まで広範囲に扱うため、評者の価値基準によってまちまちな結果が出てしまうのだと思いました。これだけ分散されてしまうと、もう頼れるのは、アマゾンの販売実績データを見るしかありません。
 そうして今年のナンバーワンを人気や売り上げで判断すると、アメリカでのミステリー本第一位は、ジョン・グリシャムの「A Time For Mercy」。これで決まりでしょう。

 いやいやそれ、先述のランキングに出ていないじゃないのと、異論もあるでしょうが、実際この本は売れに売れました。グリシャムは作家名だけでも売れてしまう売れっ子ですから、出る前からベストセラーを約束されてるようなものです。しかもその期待に違わない傑作を生みだすのがジョン・グリシャムのすごいところです。この作品がどういうものなのか、書評の一つから引用してみましょう。


「ジョン・グリシャムの古典的なリーガル・スリラー「A Time to Kill」の主人公、ジェイク・ブリガンスが帰ってきた。今回はミシシッピ州クラントンの市民を苦しめるセンセーショナルな殺人裁判の真っただ中にいる。

 1989年デビュー作の「A Time to Kill 」は現代で最も人気のある小説の一つです。ジェイクは、自分の命と名声がかかっていても、どんな犠牲を払ってでも真実と正義を求める弁護士で、古典的なアメリカのヒーローとして人気を獲得しました。

 主人公ブリガンスは2013年の『Sycamore Row』で再登場し、彼はまたしても深く分裂した裁判に巻き込まれていることになりました。

 そして今ジェイクは最新作「A Time for Mercy」の中で、ドリュー・ギャンブルの国選弁護人を務めています。クラントン市民の多くは、迅速な裁判と死刑を望んでいるが、ブリガンスは別の方法を模索する。事件の詳細を知った彼は、16歳のドリューを救うために全力を尽くさなければならないことに気づく。ジェイクは真実を追求することで、彼のキャリアと家族の安全を危険にさらすことになります。
 法廷での策略、田舎町の陰謀、そして法廷スリラーの巨匠の特徴となっているプロットのひねりが満載の「A Time for Mercy」は、アメリカ人が大好きなストーリーテラーとしての評価をより確定的にしています。」 ---Good Read---

 というわけで、相変わらずジョン・グリシャム節が健在のベストセラーがアメリカ・ミステリー2020の第一位です。間違いなく翻訳されて日本でも一位を獲得する作品のようです。私も必ず買って読みます。



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