2020年10月4日日曜日

アメリカの野鳥

 野生を撮影する楽しさ



 私の住むニューヨーク州郊外の森はいずこも野鳥の宝庫です。鳥が好きな方なら一度は訪れることをお勧めしています。

 今日は1インチ・コンデジ、CANON G3Xを片手にちょっとした自然公園に出向いたのですが、思わぬ珍客に出会えました。

アオサギ君(Grey Heron)です。

 このアオサギ君はとってもスリムで背が高く、体長1メートル近くはありました。じっと池の水面を眺め、ほとんど動こうとしないので、五メートルぐらいまで近寄ることができました。どうやら池の魚を狙って狩りの最中だったようです。やがてアオサギ君は大股で池のヘリを横切り、いきなり首を池に突っ込みました。一瞬の動作でカメラに収めることはできませんでしたが、確かに小魚を咥え、瞬く間に飲み込んでしまったのです。


 じつに優雅で落ち着いた雰囲気。やがて翼を広げて飛び去りましたが、そこには王者の風格さえ漂っていたのでした。


 私がよく散策するハドソン・バレーという地域。近くにはふだん一般人が入ることのできない、イオナ島の野生生物保護区があります。年間を通して鳥の渡りや生息状況を定点観測し、環境の変化に気を配っています。ベア・マウンテン・ブリッジの南に位置するこの島のツアーは、5月から10月の間に年に6~8回、3時間のツアーを実施しています。ここは現在はベア・マウンテン州立公園の一部となっています。初期の頃は、ネイティブアメリカンの野営地やオランダ人の入植者が住んでいて、ブドウ畑や果樹園を営んでいました。ここはアメリカの国鳥ハクトウワシの生息地としても有名で、遠くから鳥類学者やバードウォッチャーが観察に訪れます。

 希望者は上記のような予約制で年間数回しか入るチャンスはありません。最近は学術研究者や招待客、団体優先と制限されていますが、この保護区に入れなくても、周辺地域は野鳥の宝庫で、気軽に車で訪れる観光客が絶えません。

 この地域に生息する鳥類は、越冬するハクトウワシのほかに、ミサゴ、ノーザンハリアー(チュウヒワシ)、クーパー・ホーク、オオタカ、黒ハゲタカ、七面鳥などが渡ってきます。またカワセミ、オオムクドリ、ウグイスなどもよく巣作りをしています。近頃ではニューヨークでは珍しいケンタッキーウグイスなども発見されています。

 たまたま一日だけ訪れたその日にハクトウワシに巡り合えるとは限りません。そんな人のために、必ず会える場所も用意されています。ベア・マウンテン動物園です。イオナ野生生物保護区からそう遠くないところにある小さな動物園ですが、そこにハクトウワシやイーグル、フクロウ、七面鳥など、この地で保護された鳥や動物が棲んでいます。その多くはけがなどで生命の危険に遭い助けられた動物たちです。そこでも大自然の息吹は十分に感じられるので、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

 こういった貴重な野鳥の生息状況を多くのボランティアや研究家の尽力によって保護されているこの地域は、よそと比べて路上にゴミも少なく、地域住民の環境に配慮する意識も高いので、カメラの撮影にはもってこいです。どこを撮っても美しく映える景色ばかりで、その中で珍しい野鳥を撮影出来たら、本当に撮影者冥利に尽きる喜びとなります。

 私が最近知り合った近所のジミー・チャン氏もそんな自然の美に魅せられて、引っ越してきた一人です。彼はニューヨークの都心部ブルックリンに住んでいたメディア・カメラマンですが、休暇でこちらに訪れた際に、その野生美に惚れこんでしまったのだそうです。ジミーは中国系の若いカメラマンで、それまで都会で人物や事件ばかり撮ってきた人です。それが今は暇さえあれば森を訪ね、トレイルを散策するようになりました。

 このような人は特に珍しいというわけではありません。私もマンハッタンのアパート暮らしを経て、徐々にこの地域にのめり込んでしまった一人です。それまでは写真と言えば家族の記録係としての役目しかありませんでしたが、ひとたび野生のスナップ撮影にハマると、もう病みつきになります。仕事との兼ね合いで、しょっちゅう森に出かけることはできませんが、家からそう遠くない場所に美しい自然が満ち溢れているのは、幸せというほかありません。

 先日プロ・カメラマンのジミーと、カメラの話をしていたら、私がコンデジで野鳥を撮っていると知り、苦笑いされました。それで撮れないことはないけど、もっといい機材ならより素晴らしい写真を撮れるよ、とアドバイスされたのです。

「いやそれはわかってるけど・・・」私は口ごもりました。

 確かに大自然との付き合いに、ちゃちなカメラでは本気で向き合えません。しかし軽量小型だからこそシャッターチャンスを逃がしにくいのも事実なのです。その日ジミーか担いでいたのはニコンD780というプロ用フルサイズ・カメラに300ミリのバズーカ砲のような巨大望遠レンズ。いや確かにあれなら自然の本当の素晴らしさをダイナミックに写し撮れるでしょう。それはそれで素晴らしい、すごいなと思いつつも、そこまで気合が入れられるかな、と自問してしまいます。

 ともあれ、これからも暇さえあれば野鳥や野生動物など森の美しさを撮り続けていくことに変わりはありません。その中で気持ちに変化があれば従うまで。それまでは気楽にコンデジで美しい自然と付き合っていきたい、今はそう思っているのであります。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿