2020年10月8日木曜日

マスクめぐる対立

 マスク警察か、自由優先か


 先日ニューヨークで80歳の老人が、店でマスクをしない客と口論の末、押し倒されて死亡する事件がありました。多くのメディアが取り上げ、マスク論争に拍車がかかっています。

 ニューヨーク・タイムズの記事によると、酒場で店員に対し無礼なふるまいをしていた男に対し、80歳の老人が我慢ならず、注意をしたことから口論がエスカレートしたとのこと。加害者の男性はマスクをしておらず、そのことを指摘され逆上して暴力に訴えてしまったようです。

 このようなトラブルはここ数か月で全米各地に広がり、ウイルス予防に関する認識や受け止め方にも、人によって大きな隔たりがあると感じました。今回は死亡事故にまで発展したため、より深刻な社会問題として、マスクのマナーがクローズ・アップされた形です。

 日本ではこれほどマスク一つで論争になるほどのことはないかもしれません。以前、中国でもマスクをしない女性客が店側に注意され逆上、店を破壊するビデオが話題になりましたが、総体的にアメリカも、個人の主張が日本よりずっと強く、大手マスコミが「マスク大事!」と連日報道しても、いや私はいらない、と思えば世間の風潮に流されることなく、「私はできるかぎりマスクはしない」ぐらいの態度は平気でする人がいます。

 同調圧力の強い日本とは立ち位置が違うのです。わが町はリベラルが強いのですが、トランプ支持派の住人が街中でマスクを無視するのを見て、SNS上で激しく非難しています。現状、室内に限り公共の場でのマスク着用は義務付けられています。しかも店の責任者が明確に「マスク着用でなければ入店お断り」などの意思表示を張り紙などで示しているのですから、それに従うのがルールです。

 しかしうちの町だけでもこの半年で、マスクをしないで入店しようとした人を罪人のように扱ったなどの訴えをよく聞きます。マスク警察などと揶揄される人たちは、けっこうずけずけと店の入り口などでマスク着用を促すようです。日本のようにこっそりビデオに撮ってネットに流す、「みなさんこれひどいでしょ」的非難法はとらないんです。直です。直言が基本なのです。

 今回死亡事故にまで発展したマスクがらみのトラブルを受け、ネット上でもマスクの是非についての論争が再燃しています。おりしも大統領が感染して、わずか数日で退院という異例の事態もあり、マスク支持派と否定派が改めて激しく主張し合っています。

 大統領がマスクをしないのを盾に、支持派の人達は、強制力のない人通りの多い街中では基本ノーマスクです。いっぽうマスクの重要性がわかっている人たちは、かたくななぐらいどこででもマスクを着けています。うちは片田舎なのでメインストリートといえど、人が密集することはまずありません。それでも道行く人は10メートル以上前から来る人を見かけるとさっとマスクをしてからすれ違います。私もその習慣が身についてしまいました。

 否定派はそれを見てあざ笑います。そんなのまったく非科学的だ。外の風吹く大通りで、5メートルも6メートルも離れていて、どうやってウイルス感染するんだ。できるものならやってみろ、というわけです。

 私はどちらも一理あると思いました。必要以上に距離をとりすぎる必要はないだろう、でもみんなが規律をまもる町中で、あえて喧嘩を呼び込むようなアピールっぽいノーマスクもおとなげないよね、と思うのです。

 もう一つの対立構図は高齢者対若者です。ウイルスで重症化しにくいキッズの間では、コロナ恐るるに足らず的な風潮が漂っています。それに対し、高齢者の認識は、コロナ感染したら重症化=命なし、の方程式が確立されています、この温度差が人々を分断します。

 そして最後の一番厄介なマスクをめぐる分裂。そいつをこの間、私は目の当たりにしました。

 仕事で行った先の中規模の町のコンビニ的なガソリンスタンドでした。店の入り口でなにやら大声がすると思って見ると、マスクをした白髪の老人が、マスクをしない黒人の若者を指さして、「マスクをしないなら店から出ていけ」と叫んでいるのです。

 すごい堂々とした態度だったので、はじめはこの爺さん、店のオーナーかなと思っていました(ただの客でした)。黒人の若者ははじめ言い逃れしようと抵抗していましたが、爺さんの剣幕が強烈、しかも正論なのでまったく太刀打ちできません。黒人はなにやらぶつぶついいながら退散し自分の車に戻っていきました。

 おお、爺さんの貫録勝ちーーーー。と思いきや、しばらく車のなかで誰かと電話していたその若者が、泣きそうな顔でマスクをつけて再び入店してきました。そしてさっきの老人をつかまえて、「あんたはおれが黒人だからノーマスクを非難しやがった。ほかにもマスクをしない白人のガキがいただろ。これは人種差別だ!」などと抗議を展開したのです。

「わしゃ、なにもそんな・・・」こんどは老人が周りの視線を意識しながら、抗弁し始めました。黒人はなおも泣き顔で、「おれは今マスクをしてる。もうあんたの指図は受けない。買いたいものがあるんだ。差別はやめろ」論点が違うので、老人はあきれたように「あんたの人権の話じゃない。マスクのルール違反だと言ってるのじゃ」「おれはもうマスクをしている。あんたも蔑視を取り下げろ」もうなんだかわけがわかりません。

 この険悪な空気を見かねた店員がようやく間に割って入りました。

「ああ、もういいからお二人とも。喧嘩は外でしてください」

 それでこの一件はうやむやに落着したのですが、こういったささいな小競り合いはそこかしこでくすぶり続けているのでしょう。マスクひとつでこれだけ見解が違ってくるのですから、自由の国アメリカと言っても一筋縄ではいかないわけですね。この先これ以上やっかいなトラブルや悲劇が起こらないよう、はやくコロナ騒動、集結してほしいものです。

 


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