2020年11月6日金曜日

シカゴ裁判と大統領戦

NETFLIXの傑作「The Trial of the Chicago 7」


 どうやら今回の大統領選は裁判に持ち込まれそうな見込みです。
 報道を見ていて、選挙制度の脆弱点も見えてきました。これはいろんな人が指摘するように、確かに透明性、正確性、公平性など多くの観点から問題が多い選挙制度です。いわゆるツッコミどころ満載というやつでしょうか。しかし問題点があるものの、ベストではないが現状ベターだという妥協点でとりあえずアメリカ国民を納得させてきた、そんな感じです。 
 いつかはより良い選挙制度をと誰もが思うのですが、だれも大ナタをふるえずに今日まで来てしまった、そんな感じ。そして今回の選挙でそのツケがどかっと回ってきたという印象です。
 いままでも接戦を伝えられた選挙はたくさんありましたが、今回ほど最後まで読み切れないギリギリ勝負ははじめでしょう。まさに誤差の範囲で結果がひっくり返りかねない展開。こうなると両陣営も引くに引けず、それぞれが勝利を主張し続けるエンドレス・ゲームになる恐れがあります。
 恐れと言えば怖いのが熱烈な支持者同士の諍いです。対立が長引きエスカレートすると、とんでもない暴力沙汰に発展しかねません。すでにあちこちで小競り合いが飛び火しており、決して予断は許せない状況です。

 そんな中、つい先日ネットフリックスで観た映画を思い出しました。
「シカゴ裁判」(原題:The Trial of the Chicago 7)です。

 この映画は実際観ていて、ものすごく引き付けられたのですが、終始ムカムカする憤りをぬぐえませんでした。これが実話に基づくものだと知らされていたのでなおさらです。数少ない劇場上映を経たのちNetflixで公開されたこの映画は、歴史的な司法の誤審の物語です。1968年、シカゴで開催された民主党全国大会で、8人の男性がベトナム戦争に抗議し、コンラッド・ヒルトンホテルの前で警察と対立し、暴動を扇動したとして起訴されました。
 アーロン・ソーキン監督のこの映画は、アビー・ホフマン、ジェリー・ルービン、デビッド・デリンジャー、トム・ヘイデン、レニー・デイビス、ジョン・フロインズ、リー・ウィーナー、ボビー・シールの8人が、偏向した法廷に対して弁護活動を展開していく姿を描いています。

 それは、今年の夏に起こったブラック・ライブス・マター抗議デモを考えると、あまりにもタイムリーに感じます。 抗議者たちは正当性を訴えた後、再び起訴されています。映画では、発足間もないニクソン政権による告発で政治犯扱いされる7人それぞれの問題がフラッシュバックを多用して語られる形を取ります。
 この出来事は共和党政府が、手に負えないと判断した市民への報復として要求した、明らかに党派的な裁判官が主宰するショー的色彩の強い裁判でした。群衆は「全世界が見ている」と叫び、これが今回の現実の選挙戦と重なります。一国の長を決める行事ではありますが、世界中の人が見ているのです。何が起きて、どう進展していくのか、すべて記録に残っていくのです。映画では左派右派ともに、あえて感情移入できないように不完全な人間を配しています。それでいて法廷の会話劇は固唾をのむ展開となります、このあたりは監督の手腕が光ります。
 本作は映画「ソーシャルネットワーク」でメガホンを取ったソーキン監督の作品です。巧みなテンポ、歯切れの良い台詞。典型的な白人と男性の世界観を持つドラマであり、監督が今回の素材をどれだけ熱心に伝えたいのかが、ひしひし伝わってきます。
 ネタバレは避けますが、映画の終わりのほうの重要な場面で、ある登場人物が他の登場人物の言葉を文法的に批判するくだりが出てきます。監督のメッセージが明確に意図されている場面です。
 ソーキン監督の法廷ドラマは、マシンガンのように畳み込む言葉を使って観る者を引き込みます。おそらく彼の政治観は(本質的に)中道的であり、右も左もわき腹を突かれる思いをします。それを、コメディアンをうまく使って風刺のきいたジョークに仕上げる場面もあります。アーロン・ソーキン。一筋縄ではいかない監督です。

 ただひとつ指摘しておきますが、本作の最大の問題点は、好感の持てるヒーローと明確な悪役がいるにもかかわらず、裁判自体は、物語の歯車を回すシステムとして機能していないように思えます。史実だから変えられないのはわかりますが、やはりどこまでも、もやもやは残るのです。快刀乱麻なカッコよく決着する裁判映画ではありません。おとなの現実と言いますか、問題提起は十分すぎるほどなのに、じゃあどうするの? で終わる感があります。
 そして現実に引き戻されたとき、目の前のあるのは、けっこう醜い争いに向かいそうな大統領選の行方です。

 映画では強烈な不公平感を放つ最低の裁判長が悪役を極めるのですが、その周りの人間の葛藤がドラマを作っていました。さてこの現実世界では、どうなるでしょうか。誰が誰と戦い、勝利し、また敗北し、どのような決着を見るのか。いずれにしても長期戦はよしてほしい。とばっちりを食うのは国民です。少しでも早期の決着をはかり、国民に納得できる選挙の結末を見せてほしいものです。




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