2020年9月21日月曜日

北米の野生動物:シカ編


 

 鹿は愛すべき隣人



 北米の大型野生動物で、鹿ほど身近で親しみのある生き物は他にいません。

 黒い大きな瞳で、森のなかからこちらを見つめる野生の鹿を見つけると、思わず見入ってしまいます。とてもエレガントでしなやかな身のこなし。大きな耳をくるくる回して周囲を探る用心深さ。草をはむ慎ましやかな食事風景など、見ていて本当に飽きが来ない麗しき存在です。

毛の生え変わる春先の鹿

 うちから歩いて数分のところに緑に囲まれた遊歩道があるのですが、早朝散歩するとかなりの確率で彼らに出会うことができます。住宅地域からそう遠くない森なので、人の行き来が頻繁で、鹿のほうも人間を見慣れているようです。

 10メートルほどの距離なら、逃げることもなく平気で食事を続ける鹿もいます。元来は警戒心の強い動物ですが、長年人との共生に近いライフスタイルを続けてきた結果、こちらがあからさまに接近さえしなければ、適度な距離でコミュニケーションをとることもできます。

日中ちょっとした広場にも出没

 面白いのは、鹿が親子連れでも人間の方にも小さな子供がいるとわかると、鹿の警戒心がゆるむという現象です。実際私ひとりで近づくと親子の鹿は走って逃げるのですが、そのむかし、森で幼い娘といっしょに散歩をしていて、狭い遊歩道で鹿の母娘とすれ違ったことがあります。それこそご近所の家族と軽く挨拶を交わす感じでした。

毛並みのきれいな鹿

 奈良の鹿ほどではないですけど、この界隈の鹿もかなり人慣れしているものがおおいのです。中には深夜から夜明け前に住宅街に現れ、ゴミ箱を漁るツワモノもおり、わだいになったりもします。

バンビのようにかわいい子鹿

 そんな鹿さんですが、この間ばったりうちの裏庭でも出くわしました。早朝体操をするためにタンクトップと短パンとという出で立ちだったのですが、ほんの数メートル先で鹿と目が会いました。鹿は明らかに緊張気味です。私も怖がらせないように極力動きを止め、棒立ちで話しかけました。

前夜にバーベキューをしていたので食べ物の匂いで来ちゃったのかも
「鹿。どうしてこんなところにいるんでごわすか?」鹿児島訛りで話しかけました。理解できないのか、相手はじっとこちらを見つめたままです。

 庭は高いフェンスで囲われていて全くの袋小路です。車を駐車した狭い隙間を抜けなくては外に出られません。しかし私が立ちふさがっているので、全く逃げ場がない状態です。

何か言いたそうな大きな瞳
 とにかく私は鹿がパニックになって暴走しないように、ゆっくりとあとずさりしました。

「だいじょうぶ。道開けるから森へおかえり」

 私はそう言って立ち去ったのでした。しかしその後私がいなくなったのをいいことに、その鹿はけっこう長い間庭に居座っていたようです。十数分ほどして二階の窓から見るとまだ草を食っていましたから。

大胆不敵に群れで押し寄せることも
 気になって仕方がないので、カメラ片手に庭に舞い戻り、「あんた、いいかげんにせえよ」と関西弁で帰宅を促しました。「’ほな、しゃーない」鹿もそんな態度で歩き始めました。私は遠巻きにゆっくりと鹿の後ろへまわり、じわじわ追いだしたのです。

まつ毛の長い美形の鹿姉さんもいました

追記:

 北米のシカに関して知っておくべき事項を以下に記します。

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 アメリカでシカの呼称は主に3つあります。ホワイトテール、ブラックテール、ミュールジカなどです。

 鹿は神秘的で古代の生き物で、その祖先は約1000万年から2000万年前の中新世と鮮新世の地質学的時代にモンゴルに最初に現れました。そこからアジアとヨーロッパのほとんどの地域に生息するようになり、最終的にはアラスカの陸橋を渡って北米に到達しました。北アメリカのシカは、わずか100万年ほど前の更新世の時代に、今日のような姿になるまで進化を続けたと考えられています。

あんまり付け回すと「いい加減にシロシカ」って言われそう

 北米に生息するシカは基本、ホワイトテール(Odocoileus virginianus)とミュールジカ(Odocoileus hemionus)の2種だけです。3番目のグループである太平洋沿岸(コロンビア)ブラックテール(O. h. columbianus)は、単にミュールジカの地域的な変種であり、正当な亜種と考えられる程度の個性は有しています。前記の2つの原種の他の分派には、ブラックテールの近親種であるアラスカのシトカジカ(O. h. sitkensis)や、アメリカ南西部のクーズジカ(O. v. covesi)、フロリダキージカ(O. v. clavium)というオジロジカのいとこ2種があります。

 科学者たちは、ヨーロッパ人が到着する前、北米には約4000万頭のオジロジカと1000万頭のミュールジカが生息していたと推定している。しかし1908年までには、近代的な銃器による規制のない狩猟と、特に西部では皮のためだけに何百万頭もの鹿が大量に屠殺されたため(1頭1ドルの価値しかなかった)、北米の鹿の個体数はわずか50万頭にまで激減しました。

 しかし、のちに鹿の年間殺処分数を制限する法律の施行により、迫り来る絶滅に歯止めがかかりました。この半世紀の間に、狩猟種に有利な野生動物管理プログラムが確立された結果、ワシントンD.C.の野生動物管理研究所の最新の推計によると、米国(アラスカ、ハワイを含む)のシカの個体数は、オジロジカが1,250万~1,400万頭、ミュールジカが450万~700万頭となるまでに増加しています。

オジロジカが最も多く生息しているのは米国東部であるが、48州に完全に生息していない州はなく、個体数が不足しているのはカリフォルニア、ネバダ、ユタの3州のみ。その豊富さに加えて、オジロジカの能力と人間の生息地の近くでの生活意欲の高さから、大型の野生哺乳類の中では最もよく目撃されています。

参照記事:Mother Earth News より

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