2020年9月19日土曜日

ノーラン監督のTENET

 IMAXでド迫力の映像体験



 今アメリカで話題沸騰! かどうかイマイチよくわからんのですが、少なくとも映画ファンの間でギュンギュンと勢いよく話題になっている「TENET」を観てきました。

 コロナの影響下で映画館は軒並み閉鎖状態のなか、 IMAXシアターは満席時の25%の客席を用意して公開を断行しました。強気で劇場公開を決定したワーナー・ブラザースおよびIMAXシアターはいい度胸してますね。「ムーラン」のようにディズニー+のネット視聴で30ドルも取られることを思うと、大博打ですが劇場選んでくれて正解だと思いました。とにかく観客の度肝を抜く映像体験がウリの映画ですから、自宅のカウチでくつろいで観てる場合ではないのです。

 とはいえ、ニューヨークの片田舎に住んでる私は、近くにIMAXシアターなんてありません。自宅の半径50キロ圏内で「TENET]を上映しているIMAXはたった3件です。以前そのうちの一つで観た映画は確か2009年の「AVATER」。それ以来となります。

 予告編以外、ほとんど予備知識なしで見に行ったのですが、それはもう圧倒的な大迫力と観たこともない映像体験でした。2時間半の大長編でその映画館では一日に3回した上映されていませんでした。午後10時の部に行ったので、帰宅は翌日の日付になってしまいました。

 そこまでして観に行った理由は、もともとSFが大好物ということ、長い間劇場映画を観られなかったフラストレーション、そして今の停滞した世の中の閉塞感から脱出したくて、なにか突破口となるような現実逃避を試みようと思ったためです。

 結果、大変満足のいくエネルギーを浴びてきた、そんなしびれるような感覚がいま脳内で谺しています。

 物語はいたってシンプルで、主人公が世界の破滅を阻止すべく、アクション、アクションで大活躍して問題解決にたどり着く、という冒険モノの典型のようなお話です。

 ところがその内容がぶっ飛んでいます。クリストファー・ノーラン監督作は、2005年の「バットマン・ビギンズ」以来すべて観てきました。どの作品も非常に独創性溢れる作風で、観た者同士を議論させるのがうまいのです。

 が、今回の「TENET]の関しては、その難解さゆえに、必ずもう一度、観ることを促す厄介な作りになっているのです。いやもうこれは間違いなく確信犯的に、監督は観客に今作を二度見させるよう促す作り方をしているのです。

 なぜかというと、観ていてあとでそうかと納得させられる伏線が散りばめられており、一度観ただけではそれがどういうつながりで、どんな意味を持っているのか、絶対にわからない仕組みになっているのです。

 見る側はどうしても派手なバトルシーンや爆破、破壊シーンに目を奪われて、細かい伏線まで見通せないのです。監督はそんなストーリーを追う側の観客心理を巧みに刺激し、わかりにくい登場人物の言動で煙に巻いていくのです。

 要は時間の逆行にまつわる戦いの話なのですが、それはいままで観たことのない映像表現で、なんの説明もないまま突き進んでいきます。フィルムの逆回しなんて素人でもできるこのご時世、ノーラン監督はとても意表を突く時間逆行シーンを繰り出してきます。その奇妙な感覺と言ったら、まさに悪夢のようなもの。赤と青で時間の進む方向を表現したり、主人公の視点と観客の視点をつないで、作中の出来事を強く視覚化したりするのですが、それが却ってミスリードされてるような印象を受けてしまいます。まさに敵の術中にハマった忍者のような気分に陥るのです。

 ところどころ、劇中でなにが起こっているのかさえつかめなくなり、置いてきぼりになりかけました。そういった意味で非常に不親切な映画なのですが、なぜか観ていて飽きないどころか、ぐいぐい引き込まれるのです。このあたりは「インセプション」や「インターステラ」と似通っていて、主人公の行く末が気になって仕方なくなりました。

 とにかく観るものを強引に引き込む映像の迫力が素晴らしく、それだけでもIMAXの3Dで観る価値はあります。ただ繰り返しますが、この映画は一回では決して理解できない仕様になっています。ズルいとも思いました。もう少し親切な伏線を用意して欲しかったというのが本音です。今の所、二度目は確認のためにブルーレイが出るまで待ちます。しかし結構多くの人が再び映画館に足を運んでいるとききます。だとしたら監督の狙いは成功ですね。

 まあ本来、名作と言われるようないい映画は2度3度の再視聴にたえられます。ノーラン監督は凝りに凝った脚本を作って、そういった二度見必至の映画を創造しました。

 騙される覚悟で、ぜひ劇場に足を運んでください。2度見るかどうかはあなた次第。いずれにせよこの映画、決して損はしない濃密な時間を堪能できるはずです。


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