2020年9月2日水曜日

ペットを守れ

 アメリカンで自由な猫たち


 お隣の悪戯猫フレディの姿をしばらく見ないと思っていたら、先々週、天寿を全うしたと飼い主ご本人から、さきほど伺いました。とてもタフな雄猫ちゃんで、近所ではちょっとした問題児でもありました。彼は庭から庭へ我が物顔で出入りし、あちこちに彼の存在を示す引っ掻き跡を残すのが特徴でした。彼はうちの玄関口にも日常的に出没し、ポーチのど真ん中でよくゴロゴロ寝そべっていたものです。

「きみの家はここじゃないよ、そこどいて」とジェスチャーで追いやっても、我関せずです。

「ほら、動きなさい」と背中を押すと、ゴロンと裏返り「お腹なぜてにゃー」のポーズでマッサージをおねだりするのです。初めの頃は可愛いと思って、相手してやってましたが、だんだんズに乗ってきて、足にまとわりついたり、靴に顔すりすりとやたらと慣れなれしくなってきたのです。このフレディくん、とても世間上手で、誰に対しても上辺だけの愛想を振りまくのが’常套手段です。「わあ、この猫すごいワタシになついてる」と錯覚させて、しゃあしゃあと他人の家に上がり込んでくるのです。

 あるときも、私が帰宅すると、キッチンで娘とフレディが遊んでいました。娘はフレディの文字通りの猫なで声にすっかり魅了されていたのです。彼女はフレディにクッキーをあげたいなどというので、「駄目だよ、よその猫を家に入れては」と叱りフレディを連れ出そうとしました。うちは別室で二匹のウサギを飼っているのです。ウサギたちが怯えるので猫はぜったい家に入れたくなかったのです。するとそのとき、フレディが一気に豹変したのです。

「しゃーッ」と牙を向き、目を剥いて私の腕をひっかきに来たのです。出血はわずかですが手の甲がミミズ腫れになりました。恐ろしほどの速攻攻撃力。それはまさに「エルム街の悪夢」のフレディ・クルーガーでした。それ以来私は勝手に彼をフレディと呼んでいます。飼い主がつけた名前は違うのです。

 フレディは他人の家の柱も平気でひっかくので困惑する人も多かったでしょう。一番参ったのは、彼が捕らえた獲物のネズミを散々なぶった挙げ句、他人の家の前に置き去りにすることです。多くの住人が被害にあったことを伝え聞き、うちもその例外ではなかったのです。

 フレディはその後もうちのみならず、隣近所を自分の庭のように行ったり来たりして、我が物顔でした。みんなは半ば呆れ顔で、飼い主の放任ぶりをカゲで批判していました。

 飼い主の女性は一人暮らしで、マンハッタンのアパートに仕事場を持つ映画編集者です。車で猫を連れ歩くことも多いのですが、家に残したまま数日帰ってこないこともあります。必然的に近所の誰かがフレディの世話をしているものと思いますが、どういう状態なのかは不明でした。

 そんなこんなで10年ちかくフレディは近所の名物猫でした。あまり見かけなくなったのはここ1年ぐらいのことです。久しぶりに見たのは去年のクリスマスまえ。家の周りの飾り付けをしているときにフレディがふらっと現れました。

「’ひさしぶりー」懐かしさに抱き上げようとしたのですが、ぷいとそっぽを向いて逃げていきました。そのことを家内に言ったら、最近、近所の悪ガキたちが、猫をいじめている、という噂を教えてくれました。中学生ぐらいの数人のグループが、猫狩りと称する遊びをするのだそうです。うちの半径2キロ圏内には少なくとも十匹前後の飼い猫がいて、その殆どが野放し状態です。朝も夜も路上駐車の車の下にたむろしたり、自由し放題なのです。直接耳にしたことはありませんが、快く思わない住人もいたはずです。

 そんななか、子供のグループが遊びで猫を追いかけ回し、虐待に近いことをしていたらしいのです。私の推測に過ぎませんんが、人懐っこいフレディもそのキッズに追いかけ回され、ひどい目にあったのかもしれません。それで人間不信になって、引き込まってしまったのでは・・・。冬に再会したフレディはあのゴロゴロと人懐っこいごますり猫ではなくなっていたのです。ひどく怯えて、うちの娘すら避けて逃げ去りました。

 可愛そうなフレディ。近隣のみんなから愛憎半ばで親しまれてきた問題児。しかし最後は飼い主の腕の中でひっそりと息を引き取ったといいます。老衰だったとのことです。私が彼を邪険に扱ったのは数回ですが、今となっては後悔しています。もっと寛容であればよかった。隣人としてより深い信頼関係を築いて、マナーなども教えてやれたのに、そんなことを思ってしまいます。

 その後、子どもたちによる猫いじめは治まったようですが、私は目を光らせています。飼い主の放し飼いがどうにも気になるのです。どうして愛するペットをこうも一日中放し飼いにできるのでしょうか。中にはちゃんと大事に家の中だけで暮らしている猫もいます。その猫が自由を奪われたと悲しんでいるでしょうか。そういうふうには見えません。悪ガキよりも飼う側のモラルが問われるべきじゃないでしょうか。アメリカは自由な国だから、ペットも自由にさせるのがいいと言うなら、まず安全を確保してあげてと言いたいです。人の子同様、外の世界は猫にとっても危険がいっぱいと知るべきです。

 お節介かも知れませんが、もし顔見知りの飼い猫にちょっかいを出すような人を町で見かけたら、ためらわず注意を促すつもりです。めんどくさいオッサンと思われるかもしれませんが、それがペットに対する愛情だと思うのです。たとえ他人の猫ちゃんであったとしても。

ありし日のフレディ:「そちらの世界でお幸せに♥」



 



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