2020年9月3日木曜日

アメリカの食を支える"Deli"

美味いデリを探せ



 アメリカのデリカテッセンがいま熱い注目を浴びています。個人的に。

 コロナの時代になってから食の安全が脅かされています。レストランは一時閉鎖を経て、いま半分は店の外にテーブルを置き、残りの半分は店内で大幅に席数を減らして営業しています。ソーシャルディスタンディングの基準に照らして、各店いろいろ工夫を凝らし始めていまるようです。店の内装如何で、客の入り方も違ってくるのでしょう。日本ではすでに一人焼肉のような、一席一席が仕切りで半個室化している仕様に店を改装しているところが出始め、顧客の呼び戻しに懸命です。こういうのはアイデア次第で、いかに低コストで顧客に安全をアピールできるか、その発想が問われます。うまくいったらやったもん勝ちです。

 店の体制を変えることは各店考え方それぞれですが、一時しのぎの簡易措置か、長期戦を見据えての投資型改装かでその成果も変わってくるでしょう。店舗によっては、もはやウィズ・コロナが当分続くと見越して、大幅な改装に取り組むところも出始めています。

 ニューヨーク近辺のレストランを何軒か見てきましたが、四角いテーブルをアクリル板で4つに仕切っているレストランが多いようです。カウンター式の長いテーブルも仕切りを設置するのは比較的容易なので、バーや寿司屋でも主流になりつつあります。それでも店内での食事に不安を残す客は少なくないようです。そのうち完全個室型のレストランも出てくるかもしれません。「会食」なんて言葉が死語になる日が来るのでしょうか。

 昨今、そんなレストランから遠ざかった人たちが頼りにしているのが、デリカテッセンです。

 アメリカの庶民がデリと呼んで昔から親しんできた、いわゆるお惣菜屋さん。日本で言えばコロッケや揚げ物が出来上がった形で売っているお店のイメージでしょうか。今日は家に帰って夕食を一から作るのは疲れるな、手間だな、と思ったときこそデリが頼りになります。こちらの国にアジの開きや佃煮を売る店はありませんが、ミートボールやシーフードサラダ、チキンテリヤキなどはあります。ハムなどの加工肉も豊富で、デリに寄っていけばとりあえず今夜の夕食には間に合う、そんな付き合い方をアメリカ人はするのです。

 私もランチは外食が多いのですが、マクドナルドやKFC、タコベルばかりだと飽きるし、まず健康によろしくない。なので極力野菜などを付けてもらえるデリカテッセンを探すことにしています。

 地元のデリならなんども足を運んでいるので、決まったものを選びがちですが、他の市町村でふと立ち寄るデリには未知のワクワク感があります。

 デリは一国一城の主が作るオリジナル・レシピによるメニューなので、おなじサンドイッチを頼んでも、チェーン店では味わえない美味しさが期待できます。いい店に当たれば、本当にラッキーです。逆に「なんだこれは」みたいなときもあります。以前見知らぬ町で立ち寄ったデリは、店の外にカラフルな幟のサインがたくさんはためいていて、いかにも繁盛してます的な雰囲気を醸していました。でもいざ入ってみると、ガランとしていて空調さえ利いていません。座席は椅子もテーブルも全部とっぱらわれ、後ろに無造作に積み上げられていました。

 とりあえず、絵も写真もないメニューだけ見て、定番のBLTサンドイッチを注文しました。野球帽をかぶった双子のような店員が愛想笑いもせず、黙々とサンドイッチをつくります。いちおうこの店は客からカウンター越しにキッチンが見えて、それは良かったです。店員はビニール手袋をつけて食材を扱い、パン切り包丁も清潔に見えました。コロナの時代以前から、私はこのデリのように、作る過程が見える店が第一志望でした。まったく見えない店舗だとどんなプロセスでレシピを扱うのか疑ってしまうのです。

「ああ、これなら食えるな」その日もそう思ってサンドイッチをを持ち帰りました。しかしロールパンの端からはみだしたレタスがやけにしなびています。取り出してみると、水気を失い半ば茶色がかったレタスの切れ端が出てきました。ついでにトマトも白いヘタの端っこがそのまま入っており、食べられたものではありませんでした。こういう事があるからデリは要注意です。しかし「当たり」に遭遇することもあるので、やめられません。

 ずっと前には贔屓にしていたデリに裏切られたこともあります。そこは自家製のチリスープがめちゃくちゃ美味しい店で、みんなにも推薦していたのです。あるとき子供同士が仲良しで、家族ぐるみのお付き合いしている一家を招いて庭でバーベキューをしました。そのとき贔屓のデリで仕入れたスープやサンドイッチなどをシェアしたのですが、その時のコールスローが発酵寸前だったのです。みんなが口々に味がおかしいと言い出し、子供は皿ごと庭に投げ出す始末。もう赤っ恥もいいところです。招いておきながら腐ったものを提供するなんてありえないことです。本当に思い返しても恥ずかしく、申し訳なく、泣けてきたことを思い出します。それ以来その店には行っていません。人の良さそうな老夫婦の経営するデリでしたが、すっかり足が遠のいたのです。

 こう書くとアメリカのデリって酷いという印象を与えてしまいますが、これは稀有な例。普段はとても満足していて、アメリカでの食生活には欠かせないくらい重宝しています。

 フォローになるかどうかわかりませんが、私の好きなオススメのデリのメニューをご紹介します。

ドーナツ型の特大サンドイッチが豪快でうまい!


ビーアンドエル・デリという地元の店ですが、ランチ時にはいつも満員になる人気店です。いまは電話で注文を出して、客が取りに行くピックアップ方式のみ対応です。近隣のレストランやピザ屋がデリバリーに注力しているのとは対照的ですが、売れる店は黙っていても馴染みや常連客が支えてくれるものなんですね。

パーティー用のグリルド・サラダ。盛り付けがきれい。


 私はここのフライにしたナスや、チーズ・ステーキが好きです。特製サラダドレッシングのかかったシーザー・サラダも絶品です。近くの学校御用達で、なにかお祝いごとがあると、学校がこの店に特注メニューを依頼します。そのせいで地域の子どもたちは、この店の味が幼い頃から馴染みとなり、末永く愛される店として定着しているのです。

 地元民の胃袋を満たす店には、これからも変わらず頑張り続けてほしいものです。

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