2020年9月1日火曜日

安倍辞職:アメリカ庶民は

 トランプ支援者の感想



 安倍総理が持病の悪化を理由に辞職することが決まりました。この発表を受けて、アメリカ人はどういう反応を示しているのでしょうか。

 大メディアはいずれもミスター・アベの長期安定政権と経済対策アベノミクスに言及し、加えてトランプ大統領との良好な関係に政治手腕のしたたかさを付け加えています。笑ってしまったのは、多くのメディアが辞任会見時の引用写真で、泣きそうな安倍さんのしょんぼり顔を扱っていたことです。これではまるで「情けないけどボク体調悪いので辞めます」と凹む高校の生徒会長みたいです。こういうところは日米で解釈が違ってきて興味深かったですね。

 この日本では大ニュースである出来事、アメリカのメディアはそれなりに大見出し扱いのニュースとして報じてはいましたが、一般市民の反応はどうだったでしょうか。

 うちの家内の最初の反応は「え? 二度目なの? 同じ病気で?」もう10年前の突然の辞職なんて記憶にないのです。ああそんなものか、日本の政治の動向なんて関心ないだろうな。暮らしに何の関わりもないし・・・。おそらくコレが一番一般的な感想でしょう。

 もともとアメリカで、日本の安倍総理が何をしようがどうしようが、報道されるのをほとんど見たことがありません。中国とどういう関係なののか、北朝鮮と何がどれほど揉めているのかも知りません。

 私の住む町は民主党の支持者が大半を占めるのですが、私の知り合い十数人のなかで、安倍晋三の名前はかろうじて知っていても、何をした人かは誰も知りませんでした。

 というのも昨年うちの娘の通う公立高校の授業で、好きな国を選んで、国家元首のことをレポートする課題があったのです。うちの娘は日本を選び、授業で発表したのですが、プライム・ミニスター・アベのことは先生も娘の友人の家族も知らなかったそうです。ほかの数人からも日本の政治のことを聞かれた事があるのですが、日本の国政がイギリスにみならった議院内閣制であることすら初耳のようでした。

 ようするに日本の国家元首のことなんか誰も知らないのです。知る必要もなし。なんの関心もないというのが常識なのです。あ、ひとり例外がいた。近所のアルベルトさん、辞任ニュースをテレビで観て「アベ・マリオ!」と笑いながら言うのです。なんのコッチャと思いましたが、あとでやっと思い出しました。リオ・オリンピックの閉会式で安倍さんスーパーマリオのコスプレで登場したんですね。ブラジル出身のアルベルトだからこそ気付いたのでしょう。しかしそんなことでしか覚えられてないなんて、なんか情けない・・・。

 ですから安倍さんが体調不良で辞職と言われても、寝耳に水どころか、遠い島国の小さな出来事ぐらいにしか捉えられないのです。こういうことは運転手としてお客さんと会話するときにも、うんざりするくらい経験しました。日本は天皇がどれだけ政治権限を持つのかとか、自民党は右翼なのかとか、とにかくまったく偏った思い込みしかないので困ります。運転しながら一から日本の政治機構を説明しなければならないのは苦痛でしかありません。そういう理由で仕事中は極力政治の話題は避けるようにしています。それでなくてもうちの町は民主党寄りの人が多数を占めるので、現政権のトランプにはことさら辛辣です。ちょっとトランプ氏の話題が出ようものなら、蜂の巣をつついたように、罵詈雑言が飛び出します。

 私はアメリカ国民ではありませんから、ことさらどちらの政策に与せず、中立を装っているのですが、それでもトランプ政権のことを軽く擁護しようものなら、「あなたは何もわかっていない」というふうな言われ方をします。とにかくトランプは酷い大統領で、アメリカが悪い方に向かっていると断定的なのです。

 もちろん私もトランプ大統領のツイッターなどを読んでいて、ほんとうにこの人、一国の大統領なの? と目を疑う虚言を撒き散らしてはいます。しかしそれでも彼に一片でもこの国を良くしようというキモチがないのかと問われれば、あるかもね、ぐらいの感想は持ちます。この3年半の間に残してきたものも、なくはないです。国境の壁などは論外ですが、対中国の姿勢や、米国内の雇用対策や税制などに関しては一定の評価も得てはいるのです。

 トランプは政治家じゃない。ビジネスマンだ。という人は多く、たしかにこれまでの政治家にはないものの考え方をします。とりわけ損得勘定には長けているという世評には納得できます。相手を忖度せず、平気で敵を作ってしまう性格はいかんともし難い性根と言うべきでしょう。とにかく何をさせても毀誉褒貶の激しい大統領で、支持不支持も両極端。これは致し方ないところでしょう。

 トランプ支持派の市民に会うことは極めてまれなのですが、常連のお客さんの一人M氏が熱烈なトランプ支持者です。彼は小さな建築関連の経営者ですが、ことあるごとにトランプ支持を熱く語ります。私の顧客の九割九分がアンチ・トランプの中で稀有な存在です。

 ところがこのM氏が「シンゾー・アベがやめるのは残念なことだ」と漏らしたのです。アベは諸外国の指導者の中で、もっともトランプとうまくやってきた。彼を通じて日米同盟が強化されればアメリカももっとグレートになれたのに」と勇退を惜しんでやまないのです。M氏は敵対する民主党支持者よりはるかに日本の情報を知っていました。安倍氏は、トランプが大統領になったとき最初に会談した国家元首であることを覚えていました。ゴルフを通じてトランプと信頼関係を築いていったことはもちろん、トランプが大統領になる以前に、安倍総理が一度辞任していることも知っていました。さらに驚いたことに、カケ、カケと言うので何かと思えば、日本で政界を揺るがした加計問題まで知っていたのです。また昭恵夫人の行動がたびたび問題視されたことにさえ触れ、私が答えに窮したこともありました。

 このように熱烈なトランプ支持者は、けっこう彼がらみのできごとをよく勉強しているようです。この間のテレビ討論会でも、トランプ支持派のほうが、細かい数字やデータを出したり理論中心で話していました。いっぽう民主派の言論はともすると、ヒューマ二スティックな感情論に走りがちで、政治問題を道徳で語るような物言いに違和感を覚えたものです。

 現時点で、大統領選はバイデン圧勝などという見方をするメディアもありますが、いやいやトランプ氏自身はともかく、彼の思想を支える一群は、野卑一辺倒ではなく、かなり先進的で理知的な人もいることを忘れてはならないと思います。ともするとトランプシンパはバカのあつまりだと断定する人たちは用心しておくべきです。

 今の段階で共和党、民主党のキャンペーンは水と油のように対照的です。共和党はマスクもつけず、群衆が集まってトランプ支持をツバ飛ばして連呼しています(大丈夫かな)。対するバイデン率いる民主党は、リモートで演説を流し、オンラインを活用したソーシャルディスタンディング尊重でキャンペーンを進めています。

 どちらが正しいかは、結果がすべてということになるのでしょう。いずれにしても、トランプ政権にとって、安倍総理は利用価値の高い存在であったことは明白。日本の首相交代が米国の大統領選に微妙に影を落とすことになるかもしれないと思うと、今後の動向は目の離せないものになりそうです。

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