2020年7月10日金曜日

必見 傑作ミュージカル

ハミルトンが大画面でよみがえる

 

 まさかあのブロードウェーの大ヒットミュージカル「ハミルトン」がストリームングTVで観られるようになるとは思いもしませんでした。ついに「DiIsney+」に登場です。
 このミュージカル、数年前にディズニーが映画化すると聞いて、興味津々だったのですが、蓋を開けてみると、それはブロードウェーの舞台そのものを複数のカメラと編集で、映像に再現するというものだったのです。当初は、劇場公開を目指して作られたものだそうですが、予定を変更し、一気にストリーミング公開へと踏み切りました。
 舞台に関わる人にとっては、これは首をかしげる企画だったかもしれません。ミュージカル・ショーはあくまで、観客が劇場に足を運んで、役者のナマの演技を観ることにその意義があるからです。
 しかし時代の要請というのでしょうか、いみじくもこのコロナの時代に、舞台という舞台はすべて休止。多くの舞台、演劇関係者が頭を抱えているこの時代だからこその新しい観劇スタイルではないでしょうか。
 私はこれを観て、こういう演劇の見方もありだと思いました。なによりもカメラワークが考え抜かれ作られているからです。わたしも昔、カメラ・クルーとしてドキュメンタリー映像に関わったことがありますが、お芝居をフィルムに収めるのは想像するほど簡単ではありません。ただカメラを舞台に向けるだけなら誰でもできます。そこには創意工夫に加え、高度な撮影技術と舞台空間に対する深い造詣が必須なのです。
 しかしこの映画のカメラワークは素晴らしい! 劇場の臨場感を補って余りある、カメラの寄りや引き、アングルが素晴らしいこと。ここぞというときに役者の表情が映し出されると、おもわず唸ってしまいました。これは劇場の後ろの方の距離からでは味わえない醍醐味です。観ていて思わず引き込まれましたね。それでいて舞台の演出を損なわずに俯瞰するカメラ効果も考え抜かれていて、舞台に対するリスペクトも感じられます。これはかなり映像制作チームが舞台のこと、観るも側の気持ちを考慮して作ったものであると断言できます。いままでのような、ただ舞台を撮影しただけの記録フィルムとはまったく別物なのです。
 もちろん素材である「ハミルトン」自体が傑作であり、それなくしてはこの映画も生まれなかったことは確かです。
「ハミルトン」脚本が本当に面白い。ブロードウェー公開時、記録破りの大ヒットになった理由がわかりました。2016年にトニー賞やグラミー賞など名だたる賞を総なめにし、チケットが一年先まで完売という、凄まじい記録を作りました。話題を聞いて見に行きたくなったものの、とてもチケットが手に入る状況ではありませんでした。しかし、こうやってついに実物を映画として観ることができたのです。

 主人公のアレキサンダー・ハミルトンは米国建国の父の一人と位置づけられていますが、この舞台以前はそれほど目立った知名度ではなかったと思います。こどもたちに聞くと、歴史の授業で名前は覚えていたが、何をした人かは知らない。とのこと。アメリカ独立戦争の時代はジョージ・ワシントンはじめ、ベンジャミン・フランクリン、トマス・ジェファーソン、ジョン・アダムスなど傑出した人物が多かったので、つい埋もれがちだったのでしょう。ハミルトンはおそらく一般市民にとってもそれほど馴染みのある人物ではありません。すこし歴史に興味のある人なら知ってるよ、と答えるであろう、それくらいの人物です。明治維新の日本人で言えば、坂本竜馬や勝海舟、西郷隆盛に対する中岡慎太郎みたいな立ち位置じゃないでしょうか(ちょっと微妙)。
 しかしハミルトンを主役に据えるアイデアは、まさに慧眼でした。彼を軸に歴史を紐解くことで、当時の激動のアメリカがどうなっていたのか、はっきり浮かび上がってきます。同時に彼の人生を通して、関わった人々の悲喜こもごもがとてもリアルに伝わってきます。
 実質このミュージカルを企画・制作したのはハミルトンを演じる舞台俳優リン=マニュエル・ミランダ。彼の企画力がすべての成功の源でしょう。
 なかでも話題だったのは、配役と音楽。アメリカ史において、主だった歴史上の人物は西洋人のみという史実を覆し、このミュージカルでは多くの黒人が建国に関わった人々を演じています。しかも歌われる曲の大半がヒップホップ。これはいまだ人種差別が横行するアメリカ社会にあって、画期的な試みでした。またこのショーの成功はニューヨークのブロードウェーだからこそなされたものかもしれません。
 とにかくこのミュージカル・プラス・映画、すべての人におすすめです。こんな傑作を自宅で観られる時代が来ようとは、思いもよりませんでした。

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