2020年7月18日土曜日

アメリカでウケる盆栽

世界に広がる盆栽の輪

 

 外出を控えなければならないこの時期、我が家とご近所で俄然注目を集めているのが「盆栽」です。家内が鉢植え好きということもあって、我が家では随時いろんな植物の鉢植えが窓際や軒に並んでおります。私もなにげに4月頃、ウォルマートで買ってきたサボテンの鉢を育てていたのですが、近所のご婦人が庭越しにうちの鉢植えをやたら褒めてくれます。通りがかる度に植木鉢のことを言うので、なにか話をしたいのだろうと、ディスタンスをキープしたまま応対していると、どうやら彼女にも自慢の鉢植えがあり、それを見せたいのだと察しました。



 一軒隔てた先にあるその家の庭先に行ってみると、おばさんが満面の笑みで、松の盆栽を持ってきました。
「これはシンパクっていう盆栽なの」アメリカのおばさんに盆栽の種類を教えられました。そう、こっちの人もBONSAIと呼ぶのです。聞くところによると、二年ほど前、朝市で買ってきたものだそうです。見かけは素人の私が言うのもなんですが、ちょっと微妙ないびつ感が・・・。でももちろんそんな事、言いません大人ですから。
とりあえずOh, Cool! などと言って褒めそやしたのです。
 彼女、始めは手を付けるのが怖かったけど、今は毎日手入れをしないと気が済まないほどハマっているそうです。しかもひと鉢ではなく、10鉢あまり集めてるのだとか。それぞれ居間やキッチン、寝室などに置いてるそうです。あんまり話を合わせると、全部持ってきそうなので、後ずさりしかけた時、背後から犬を連れた若い青年が通りかかりました。マスクをしてなかったので、私、あからさまに身を引いたのですが、青年は構わず、オーそれ盆栽! と近づいてきました。彼はマンハッタンで開催された日本人まつりで盆栽を買ったことがあり、それ以来のファンだというのです。近所のご婦人とも顔見知りのようで、そこでひとしきり盆栽談話の花が咲きました。
 盆栽ってけっこう人気があるのか?
 家に帰り、私は素朴な疑問を妻に向けました。妻は「なにを今更」って顔でした。どうやら盆栽はアメリカでは常識レベルの認知度らしいです。
 こんな流れで、結局、私も妻もひと鉢づつ、出来あいの盆栽モドキを近くのガーデニングショップで買ってきてしまいました。意外にもけっこう素人の目には本物っぽい盆栽が普通に売られていてちょっと感動しました。私のは定番の五葉松。育てやすく、元の基本形がデキているので、安心して始められるやつです。家内はオリーブの木を買いました。これも盆栽? まあ自由の国アメリカですから、なんでもありなんでしょうか。
 ともかく、こうして我々はご近所で盆栽育てを嗜む、ボン友? になったのかも知れません。決めつけるのは早計ですが。まだまだこれから勉強することがいっぱいありそうです。

 閑話休題
 かつて日本では主に年寄りの趣味でしたが、欧米での人気は年々広がっているようです。日本貿易振興機構によると、日本から海外への盆栽輸出額は年々増加し続けているとか。22世紀以降、それはかつてない世界的な大ブームが巻き起こっているらしいです。

 当時の新聞によると、2017年4月に埼玉県で開催された第8回「世界盆栽大会」には、40の国から約4万5000人の愛好家が参加したそうです。300点を超える作品が展示され、一流の盆栽作家によるデモンストレーションが行われました。そこには外国人観光客が長蛇の列を作り、大賑わいでした、とのこと。

 日本では、一時期、盆栽は衰退し、仕事を引退した老人の趣味と揶揄されてましたよね。しかし海外のファンが盆栽の素晴らしさに気づき、注目したのです。その結果、日本人も盆栽の価値を再発見して、新しいムーヴメントが起こった、みたいな流れです。

 盆栽の持つ造形美は人種を問わず、世界中で理解されてるようです。それはもう美術品という扱いですね。聞くところによると、最近は日本で4千円ほどの価値の盆栽が、海外で1000ドル以上で売買されることもあるとか。それはまさに美術品と同じように、価値が上昇していくものなんですって。長い年月をかけて育てた盆栽は、専門家の目で高く評価されるものなんですけどね。

 そもそも盆栽は、西暦900年ごろ、中国からその原型が伝わってきたと言われています。以来1100年間、日本独自の芸術文化として進化してきました。古い文献によると、僧侶や有名な将軍たちも、この生きた芸術品を育ててきたといいます。そのため盆栽は、昔から富裕層の趣味として定着しました。近世になって大衆化した後に、盆栽の評論や分析が進み、専門家が出現したのです。それ以来、様々なバリエーションの盆栽が生まれ、巨大な文化へと成長していきました。

 盆栽は、ただ小さな植物に水を与えるだけではないのですね。盆栽の多くは手入れを怠ると鉢の許容量を超えてしまう。大きくなりすぎるのは、失敗を意味します。

 盆栽は長い月日をかけて、その植物を美しい形に育成していくもの。育成に大事な要素は土。育成する植物にふさわしい土を選ぶのが第一歩です。また水苔や小石で土の表面を覆い、土の適度な湿度を調整する必要もあります。盆栽は毎日の管理が欠かせません。小さな枝や葉っぱをこまめに観察し、不要なものを取り除く。枝の伸びる方向を予測し、微妙な調節を繰り返すことによって、イメージ通りに育てるのです。

 育成する側は、まるで医者のように植物の健康状態を管理しなければなりません。上級者は幹や枝の伸びる角度を細かく調整し、完璧を目指します。さらに木の根の構造までコントロールしていきます。針金を使って方向性を操作するやり方ももはや一般的。しかしそれらはけっして不自然な矯正ではないのです。それぞれの植物の特性や能力を観察し、小さな鉢の世界に適合させてゆく。それはとても高度な技術です。そしてそのためには盆栽に向ける愛情が不可欠です。盆栽を育てる人たちは、まるでわが子を育成するように温かい心情を注ぎます。

 美しい盆栽は見ていても飽きません。それは大自然をコンパクトに纏めた小宇宙です。これは禅の思想にも結びつきます。盆栽の世話をしている間は、瞑想と同じ精神状態になる。それは心の健康も促進するのです。よくできた盆栽には、驚くべきエネルギーが込められています。それらは人の心を和ませ、感動を与える存在になるのです。

 優れた盆栽育成の技術はとても奥が深く、素人の私にはまだまだ立ち入れません。盆栽の世界では、伝統が重んじられます。それは様々な様式、流儀があることでもわかります。学ぶべきことは沢山あるのです。
 有名な「青龍」と呼ばれる五葉松の盆栽は、樹齢が350年と言われています。伝説の龍をイメージしたその盆栽は、長さ5フィートの大きな幹が美しい。幹の一部は老朽化し乾燥していますが、それも狙い通りの成果でしょう。それは素晴らしい造形美で、専門家からも高評価を得ています。

 この盆栽は「さいたま盆栽美術館」に保管されています。この美術館には様々な盆栽の傑作が展示されていることで知られています。まさに世界中から盆栽ファンが訪れる盆栽の聖地です。
 いま盆栽の素晴らしさは世界の至るところに広がりつつあります。今後はそれぞれの国で、独自のアレンジが加えられた、新世代の盆栽が生まれるでしょう。
 今後の発展がとても楽しみです。

0 件のコメント:

コメントを投稿