2020年7月28日火曜日

あおり、喰らいました

いわゆるJEEP問題

 

 久々に、アメリカであおり運転に遭遇しました。けっこうキツイやつです。空港に向かってニューヨーク市内に入る直前でした。支流からハイウェイに合流する際、背後からかなり早い車が接近しているのを目視しました。黒いJEEP Cherokeeです。ちかごろ人気の、スポーツタイプのSUVです。
 ミラー越しに、後ろから車間距離がぐいぐい縮まって来ているのが見えました。一瞬迷ったのですが、こちらが急加速してハイウェイに入るのは危ないと思い、そのままスムーズにハイウェイに入りました。
 ただそれだけです。
ところがその直後、後ろのJEEPは斜め後ろから猛スピードで私を追い越しました。いきなり三車線あるハイウェイの中央に躍り出たのです。ハイウェイの車がまばらだったので良かったですが、もし混み合っていたら衝突の可能性大です。



「何焦ってんのこのJEEP」
 私はそう思いながら、先をゆく車を見送りかけたのです。するとそいつは何を思ったのか、いきなり私の前に車線変更し、急激にスピードを落としたのです。とっさに私はブレーキをかけながら、隣の車線に入りました。後方確認をする暇も無いくらい一瞬でした。 
 ところが前の車はさらに車線変更し、すかさず私の行く手を塞いできたのです。
 ああ、コレは厄介だなと思いました。もう、明確に私の車を意識しています。まあ、こういうことは、以前にも何度かありました。毎日車を運転していると、たまにこういう、いわゆる「あおり」をしかけてくる車はあるものです。その殆どは一過性のもので、スグ走り去ってゆくものです。が、この日のJEEPはちょっと、どうかしていました。
 
 私は約束の時間までに空港へゆく仕事の最中です。こういう輩に付き合っている暇はないので、追い抜き車線に移動し、加速してその車を抜き去りました。折しもそこはカーブで急な上り坂に差し掛かっていました。私の車はキャデラックのSRXという車種で、排気量3000CC、V型6気筒のパワフルなエンジンです。ハイウェイでの加速性能でJEEP Cherokeeよりは一日の長があるのです。
 JEEPはそのままの車線をキープし、後ろに遠ざかっていきました。
「やれやれ」と思い慢心したのが間違いのもとでした。平坦な道になり、二分ほどすると、さきほどのJEEPがわんわんうなりを立てて猛追してきたのです。
「まじかよ」
 私は焦りました。日本でのあおり運転による事件も聞いていたので、厄介事はごめんだと思ったのです。とっさに私は窓を開け、笑顔を作ってスピードを落としました。JEEPは私をかすめるように、抜き去っていきました。先方を走るJEEPが米粒くらいに遠ざかったので、笑顔と減速が効いたなと思い安堵しました。
 ところがその数分後、行く手に目を疑う光景が飛び込んできました。先程のJEEPがセーフティ・ゾーンの路肩に停車していたのです。
「わざわざ俺を待ってたの?」
 胸騒ぎがこみ上げてきます。不安な思いでそこを通り過ぎると、案の定JEEPが追っかけてきました。
「こいつ、どうかしてる」と確信しました。
もう執拗に私に絡んでくる意思がむき出しなのです。
 いろんな事を思い浮かべました。停車させられたらどうしよう。警察を呼ぼうか。スマイルで切り抜けようか。武器になるものはないか。もう心中おだやかではありません。
 私は高速道路上ですが、あからさまに時速40キロ以下に減速しました。すると背後のJEEPは私の後ろにピッタリ張り付いてきました。ミラー越しに、グラサンを賭けた髪の長い女が見えました。
 そう、間違いなく女性です。日本の人には驚きかもしれませんが、アメリカでは男女の差もなくアオリ運転手は存在するのです。ただここまで執拗であからさまなアオリ・レディは私もはじめてです。
 迷った挙げ句、私は通常スピードに加速し、逃げ切ろうと思いました。するとすかさず、JEEPは反応し、私の真横を追い越していったのです。
「今度はどう出る、アオリ・レディ!」
 私は緊張の極みに達して、次の一手を考えてハンドルを握りしめます。
 ところがそこでストーリーは終幕を迎えます。そのJEEPはもはや減速も接近もすることなく、猛スピードで消え去っていたのです。
「は・・・」
 その時、私は気づきました。最初に煽ってきたJEEPと今しがた追い抜いたJEEPは別物だと。同じ黒で同じ車種だったので、勘違いしていたのです。
 私は冷静になって、ナンバープレートの色の違いに思い当たったのです。最初のJEEPは私と同じオレンジ色のNEW YORKナンバーでした。しかし後のやつは白と青のコネチカット・ナンバーだったのです。
 同じJEEP Cherokeeですが、同一とみ間違うほど、やたら乱暴な運転でした。
「なんだよ、勘弁してくれよJEEP」安堵とともになんだかJEEPが憎らしく思えてきました。
 そこで改めて浮上してきたのが、いわゆるJEEP問題です。
 いや、コレは私と運転仲間の間だけの話なので、一般化するつもりはありません。しかしこの日の出来事で、私の中でJEEP問題は消し難いほど強まってきたのです。
 JEEP問題。それは、「JEEPって早いよね」問題です。
 これに相槌打つ人、必ずいるんじゃないかなーアメリカでは。
 とにかく巷で早いJEEPが目立つのです。気のせいではありません。毎日車を走らせていて、本当に気づくのです。JEEPはやたらと早いのが多いと。
 とくに最近です。ご存知のように、JEEPはラングラーに代表される、オフロードに強いメーカーです。もともと軍用車から出発したメーカーなので、ゴツくて無骨でタフなイメージが人気で、昔から一定の熱狂的なファン層がおりました。しかし時代の流れとともに、デザイン、性能ともに他のメーカーに遅れを取るようになりました。一時はブランドの危機も囁かれるほど、業績は落ち込みました。
 ところが2014年にフィアット社の子会社化を契機に、経営戦略は一変します。世界市場をターゲットに、全車種を見直し思い切ったモデルチェンジを図りました。
 その結果いままでおっさん臭かったCherokeeは見違えるようにスタイリッシュになり、若者のハートを掴んだのです。コレ以降、JEEP車はことごとく息を吹き返し、大人気メーカーへと復帰しました。
 JEEP Cherokeeのスペック上は2.4リッター、180馬力と平凡ですが、すごい粘りと加速力があります。数年前一度だけ乗る機会があったのですが、ちょっとアクセルを踏んだだけでグングン加速します。このパワフルな乗り心地がドライバーを高揚させるのでしょうか。とにかくJEEPを運転する者はとりつかれたように、他車を追い抜いていくのです。
 こんなこと自分だけの錯覚だと思っていたのですが、先日同僚にその話をした所、JEEPは早い! と即答が返ってきました。
「あれやばいよ。最近のJEEP早すぎ。スピードメーター、サバ読んでんじゃね?」と言い放ちます。
 さすがにサバ読みは無いと思いますが、やはり加速性能に優れたJEEPは、スペック以上に何かしら人を突き動かすエネルギーを持っているのかもしれません。
 今回のアオリ事件を受けて、ますますその確信は高まったのであります。

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