2020年7月11日土曜日

名門ブルックスブラザーズ危うし

アメリカで相次ぐ経営破綻



 ついにアメリカ紳士服の老舗、ブルックスブラザーズが破産法第11章を申請しました。
いまコロナウィルスの影響で、数多くのアメリカ企業が倒れています。
 5月にはフィットネスジムの大手ゴールドジムが破産申請しました。ついで大手百貨店J.C.Pennyが同申請、レンタカー大手のHertzも白旗を上げました。7月に入ってあのシルクドソレイユも破産申請。そしてここにきて、名門ブルックスブラザーズです。アメリカではポールスチュアートやラルフローレンと並ぶアメリカン・ファッション・ブランドの最大手です。
 創業1818年、ニューヨークで誕生したブルックスブラザーズは、アメリカで最も古い紳士服の仕立て屋として親しまれてきました。アブラハム・リンカーンやジョン・F・ケネディ、バラク・オバマら歴代の大統領も御用達だったそうです。ほかにも、ニューヨークゆかりの多くの著名人に愛されてきました。なかには「路上」のジャック・ケルアック、ポップアートの旗手、アンディ・ウォーホルなどもいました。作家のスコット・フィッツジェラルドはブルックスブラザーズ・スーツの熱烈な支持者として知られ、著書にもその愛着ぶりが記されています。映画「華麗なるギャツビー」ではブルックスブラザーズは衣装を担当し、レオナルド・ディカプリオらが華麗にそのスーツを着こなしていました。
 スーツと言えば、最近はドラマ「SUITS」などでトム・フォードなどの比較的若い人向けのよりカジュアルなスタイルを重視するブランドがもてはやされています。古き良きアメリカを体現するブルックブラザーズはコロナ以前から業績は下降気味で、数十店の閉店は既定路線だったそうです。名門とは言えども、今の若いオフィスビジネスマンたちの嗜好を読み切れてはいなかっったのかも知れません。
 もう10年以上前ですが、私が仕事で知り合ったお客さんで、ウォール街で働く若手の証券マンがいました。彼は私より若く30代の頃から、パリッとしたスーツを着こなしていました。あるとき彼がスーツを誂えに行くので付き合ってくれ、と言われました。普段は運転業務だけのお付き合いでしたが、冬物の新しいスーツが欲しいので、どれが似合うか見立ててくれというのです。それで行ったところがマンハッタン、マディソン街のブルックスブラザーズ本店です。
 もちろん私などには縁遠い高級洋品店です。運転業務用の煤けた安物ジャケットを羽織った私は、入店すらはばかられそうな格式高い店舗でした。私はひたすら証券マンの彼の背後について歩き、客ではないことをアピールしようとしました。店員たちは実にピシッとしていて、ちょっと声かけづらい雰囲気でしたかね。
 証券マンの彼は手慣れた様子で、店員に何やら注文を出しています。服一つ作るにも随分念入りに話し合いが行われ、店頭にないものはいちいちバックに引っ込んで別のサンプルをとっ変えひっかえ見せては解説していくのです。
 その間、私は店内をさり気なく物色していました。スーツは無理でもシャツぐらいはひとついいものが欲しいかな、なんて軽い気分で値札を見て、目を疑いました。120ドル、140ドル、200ドル。いや生地は良さそうだな、デザインもかっこいいです。それぐらいわかります。し、しかし一見なんの変哲もないフツーのドレスシャツがなんでこんなに高いの? ってことです。普段、安売りショップなどで少しでも安いシャツをと心がけている私には理解不能な価格帯でした。
 冷や汗を吹きながら、じゃあネクタイぐらいはココのブランドのをひとつ買って箔をつけようと見て回りました。ところがセール中のネクタイですら80ドル前後。普通に100ドル以上で売っております。ああ、ここはもう住む世界が違う、そう思いましたね。これでもアメリカブランドは、ヨーロッパのトップブランドより安いほうなんですから、上を見ればキリがありません。
 同行した証券マン君はザイズを測り終え、とても上機嫌で店を出ました。確認したわけではありませんが、この日彼がオーダーしたスーツは、最低でも4000ドルはくだらなかったことでしょう。
 というわけで、ブルックスブラザーズは私にとって、ステータス・シンボルの権化のような存在でした。それが今回、経営破綻したというのは、じつにショッキングな出来事でした。この時代、いかなる企業でさえも、対応を見誤ると一寸先は闇なのだと、教訓を持って思い知らされるニュースだったのです。

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